
私の父は、物静かで自分のペースを守る人です。子どもたちのことを何よりも大切にしてくれ、特に私と弟を可愛がってくれます。
しかし、父には放浪癖があります。家族旅行の途中でも、ふと気が付くと姿が見えなくなり、また同じように気が付くと戻ってきているのです。そんな自由人でもありました。
冬の休暇、私たち家族は親戚と一緒に海の町へ行くことになりました。私、弟、父、母の四人は、父が運転する車で、目的地の海辺まで向かいました。確かに道を外れることはなく、父はナビに従って無事に到着しました。
海辺では、私たちは新鮮な魚介類を楽しみ、温かい陽射しの中で過ごしました。父も満足そうに見えました。
その帰り道のことでした。
満腹になり、温かさで心地よくなった父は、眠気に襲われていました。これでは危険だと思い、母が道端の小さな売店に立ち寄ることを提案しました。コーヒーなどを買ってくると言い、店に向かいました。
私は弟と一緒に車の側で遊びながら、周りの景色を眺めていました。そのとき、遠くから声が聞こえました。父の声でした。
彼は私たちの少し後ろにいて、私の名前を呼んでいました。
一緒に行こうかと思いましたが、父の放浪のペースに合わせるのも面倒だと思い、私は自分の気分でさらに先に進みました。
車に戻ると、すでに母と弟が車内にいて、父は運転席で目を閉じているようでした。外で見かけた父が戻ってきたのかと、少し驚きました。
「もう帰ってきたの?お父さん、そんなに疲れてるの?」と弟に言うと、彼は不思議そうにこっちを見ました。
「帰ってないよ。ずっと寝てた。」
「え?」
「停まってからずっと寝てたよ。」
弟の言葉に私も頭を傾げました。すると、母が父を起こしましたが、その手つきがいつもと違うように感じました。優しさが感じられない、どこか冷たい手つきでした。
父が目を覚まし、大きなため息をついて、母の手を振り払いました。
「うるさい。ほっといてくれ。」
冷たく言い放ち、エンジンをかける父を見て、私は驚愕しました。優しい父がこんな風に不機嫌になることはなかったからです。隣に座る弟にLINEを送りました。
『お父さん、何で怒ってるの?』
『いつもこんな感じじゃん。』
『全然違うよ。』
『いや、だいたい機嫌悪いじゃん。』
その日を境に、父は私の知る父ではなくなってしまいました。放浪もしなければ、せっかちで、私たちに興味を持たない人に変わってしまったのです。
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