今から数年前私が実際に経験したお話です。 全然怖くないですが、不思議な体験でした。 その日、私は取引先の開催する事業説明会に出席していました。 その説明会には主催企業と取引のあるお客さんが100名ほど呼ばれていました。 私たちはそこそこ広い会場に通され、私は壁際の席に腰を下ろしました。 私の右側のその壁は半分ぐらい鏡になっていて、私から見るとちょうどステージが映る角度がついていました。 説明会が始まりしばらく経ち、私はふとステージに向けていた視線を隣の鏡に移しました。 鏡にはステージが映っていました。 ステージ上には、真ん中に登壇者用の台と、両端に人の背丈ほどの活け花が置かれていました。 ぼんやり鏡越しにステージを見ていた私は、不意に違和感を覚えました。 鏡越しに映るステージ上の活け花の横で、その花の世話をするように人影が動いていたのです。 驚いてステージを見ると、そこには事業説明をしている男性が壇上に一人いるだけで、花の横には誰もいません。 ステージの周りにも、立っている人は誰もいません。 もう一度鏡に視線を戻しました。 ・・・やっぱりそこには「いる」のです。 花の横で忙しなく動き、まるで花の余計な茎をカットしたり形を整えたりしているように動く「影」が、はっきりと「いる」のです。 ステージに視線を戻すと、やっぱり登壇者以外誰もいません。 鏡に視線を戻すと、やっぱり花の横に影がいます。 その影は鏡越しにしか見えないのです。 その影は、いくらか輪郭がぼんやりとしていて、薄いグレーと会場の照明の黄色が入り混じったような色をしていました。 そしてずっと花の世話をしているように鏡の中で動き続けているのです。 「誰か気づいている人がいるのでは」 私は会場を見回してみましたが、何か違和感を覚えているような人は見当たりません。 その後も私は鏡越しに影の動きを注視していましたが、その影は延々と花の世話をするように動くだけでした。 それから多分15分ぐらいは影が見え続けていましたが、やがて消えてしまいました。 色々と不思議なものを見たり聞いたりしてきた私ですが、あれほど長時間にわたって不思議なものが見え続けたのはあの時以外ありません。 全然怖くはないですが、不思議なこととして、今でもよく覚えています。