
新しい職場の近くに、引っ越したばかりの高層ビルがある。
そのビルは築30年の古いもので、外観は少しボロボロだが、内部は最近改装されていて、居住空間は驚くほど綺麗だった。
賃料も安く、すぐに契約を決めた。
しかし、住んでみると、どうにも空気が重くて、特に水道水の匂いが気になった。
キッチンには浄水器を取り付けて、飲み水は購入したミネラルウォーターで賄っていたが、やはり気になるのはバスルームの水だった。
普段はシャワーで済ませるが、たまにお湯を張ると、その生臭い匂いにげんなりする。
だから、入浴の際は必ず入浴剤を入れて誤魔化すことにしていた。
ある晩、ふと気になったことがあった。
毎朝、シャワーを浴びるとき、洗面器の隅に水がたまっていることがあるのだ。「昨日の残りか」と思い捨てていたが、次第にそれが頻繁になってきた。
「何かおかしい」と思い始めたのは、そんな時だった。
数日後、再び洗面器に水がたまっているのを発見。今度は徹底的に調べる必要があると思った。
夜中に、誰かが侵入しているのではないかと疑念が生まれ、隠しカメラを購入し、洗面所に設置した。これで真実を求める。
カメラの準備が整い、会社に行く前に再確認すると、スマホが震えた。カメラが作動したのだ。
驚いて画面を見ると、洗面器の近くから、細長い、まるで水草のようなものが伸びていた。
それは乾燥したように見える、細くて長い物体だった。徐々に洗面器に近づき、その物体は水を注ごうとしている。
恐怖で身動きが取れず、ただその様子を見つめていた。怖くて声も出せず、心臓の鼓動が聞こえるほどだった。
逃げることも考えたが、どうしようもなかった。突然、洗面所のドアが開く音がした。恐れと興奮が交錯した。
逃げるしかない。エレベーターを待つ余裕もなく、階段を駆け下りた。
外に出た瞬間、安堵を感じたが、心は不安でいっぱいだった。何とか電車に乗り込み、周囲を確認すると、近くにいた男性が言った。「カバン、濡れてますよ」。
見ると、スマホが水浸しだった。しかも、その水はあの時の生臭いお湯だった。
「もう、帰れない…」と心の中で呟いた。自分の新しい家には、もう二度と戻れない気がした。
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