
私は小学校の図工の担任をしていた。
そのクラスのBくんは絵を描くのが好きで、授業の度に色鉛筆で描いた作品を見せに来てくれた。
「B君、これ何を描いたの?」
「これはね、おじいちゃんが抱っこしてる赤ちゃん。こっちはおばあちゃんが見守ってるの。」
Bくんの絵には必ず家族らしい男女とB君自身、そして無数の真っ黒な目が描かれていた。黒い目は画用紙を埋め尽くし、見ていると不気味な感覚が押し寄せた。
「こんなに目がたくさんいるけど、B君の家は大丈夫なの?狭くない?」
「ううん、大丈夫だよ。でも、夜はちょっと怖い。」
噂でB君の父親が近隣で問題を起こしていること、母親が不審な宗教団体に関わっていることを知っていたため、気が重くなった。
一ヶ月後、B君の家族は突然の消息不明となった。
さらに一ヶ月後、寒い冬の山の中でB君だけが保護された。しかし、彼はショックで言葉を失い、他人に怯えるようになっていた。
入院した小児精神科病棟でB君が描く絵には、無数の黒い目の他に、真っ赤で丸い目を持つ男女の顔が加わっていた。それを描いている間、B君は無表情で、ただ笑い続けていたという。彼の目はどこか遠くを見つめていた。彼が描いた赤い目の正体を知る者はいなかった。
その絵は、彼の心の奥底に潜む恐怖を映し出していたのかもしれない。何が彼に起こったのか、誰も知る由はなかった。
そして、図工室の壁にはいつの間にか、B君が描いた無数の黒い目が、まるで見張るかのように描かれていた。何かが、また始まろうとしている気配がした。
その瞬間、私は背筋が凍るのを感じた。
何が彼を、またこの場所を取り巻いているのか、考えることすら恐ろしかった。
その後、B君の絵を見た者は、誰もが言葉を失った。
絵の中の目が、確かにこちらを見ていたからだ。
そして、彼の描いた真っ赤な目の持ち主は、今もなお、どこかに存在しているのかもしれない。
その時、私はただ静かに、彼の描いた絵を見つめることしかできなかった。
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