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長編

守護刀

baron 2020年9月26日
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自分が体験した奇妙な出来事について話します。(場所の詳細が分かるとまずいかもしれないので、少しフェイクを交えながらお話します) 俺は当時高校2年生、ド田舎というほどではないかな?くらいの小さな町に住んでいた。 霊感なんてものはこれっぽっちもなく、本当にごくごく普通の高校生だったと思う。 同じ市内にある高校には、自宅から徒歩2分にある小さな駅から電車で7分揺られ、そこから駐輪場に停めてある通学用の自転車に乗って10分程度といったルートで通っていたんだが、とある頃から途中で立ち寄る駐輪場のある駅近くで不思議なものを見るようになった。 駅の改札からまっすぐ出口に歩いた途中に、軍服?を着た30代くらいの男性を頻繁に見かけるようになったのだ。 ピッタリと身体にはりつくような斜めがけの鞄を身に着け、がっちりとしたブーツを履いた1度見たらとても忘れないような格好をしていたので、見かけるたびに あっ、またあの人だ と思いながらなんとなく目で追いかけるようになった。 今思えばあんな浮いた格好をした人がそこらへんを普通に歩いているのに人の注目を集めるでもなく自然に紛れていた事が何かおかしかったのだけど、当時は特に変な格好をしているなあくらいの気持ちで過ごしていた。 とまあ、そんな変な格好をしたおじさんと呼ぶにはまだ若そうな軍服の男を見かけるようになって暫くした頃、中学の時に仲良くしていた友達2人と久しぶりにその駅で待ち合わせて遊ぶことになった。 仮にここでは友人をA、Bと呼ぶことにします。 お昼くらいに駅で待ち合わせることになったのだが、Bが電車に乗り遅れたとのことで先に待ち合せたAと少し駅の近くをふらつきながら待つことにした。 中学の頃から時間にルーズというかマイペースだったBなので、まあいつもの事だからなと思いながらAと談笑しつつ駅近くのコンビニを目指しながら歩いていると、普段は駅の出入り口近くで見かける軍服の男と駐輪場近くにある小道ですれ違った。 A「なんか今日ここらでイベントでもあったっけ?」 俺「ああ、なんかいつもあの格好してるんだよあの人」 A「すげーな、このクソ暑いのにあんなばっちり着込んで暑くないのかね」 なんて話をしながらコンビニにたどり着いた。 Aが真っ先にコスプレを疑ったのは、おそらく地元の河川敷でよくアニメなどのコスプレイベントなどが催されていたからだと思う。 9月もそろそろ終わるかなといった頃だったが、まだ残暑続きだったのでコンビニの店内で少し涼み、店の前で購入したアイスを食べたりながらBを待っていた。 1時間ほど待ったところでBから俺とA宛に 「あと少しで駅につく」 とメールが届いたので、流石に同じ所に留まり疲れた俺とAは駅までBを迎えに行くことにした。(大体お昼くらいだと電車が40分〜1時間に1本なので乗り遅れるとこのくらいズレる) 駅でBと合流した俺達は、そこからまた駐輪場の脇にある小道を通ってショッピングモールやゲームセンターのある中心街へと歩いて向かう。 そのとき、1時間前と全く同じ場所で、またあの軍服の男とすれ違った。 ちょっと不気味だった俺とAは「またあの人だ」「あんな格好して、ここで何してるんだろう」などと話しながら歩き続けていたところで、Bが少し怒ったようなトーンで両脇を歩いていた俺とAの首元を後ろからがしっと腕で抱えながら言う。 B「お前ら、絶対に振り返るなよ」 A「えっ、なになに?」 俺「???」 B「いいから!そのまま歩け!」 なんの事かわからないまま、強引に大通りまで引っ張られた俺とA。 俺「なんだよB、いきなりこんなとこに引っ張ってきて」 A「どうしたんだよ」 普段とても柔らかい印象で、強引なところなど微塵もないBのおかしな様子に少しAと俺は戸惑っていた。 B「さっきすれ違った変なやついたろ、アレが立ち止まってずっとこっち見てたんだよ…ニヤニヤしながら…!」 うっ…!と思わず声が漏れてしまう程に俺もAもおそろしくなってしまい、とにかく人がたくさんいるところに行こう!と俺達はショッピングモールまで走った。元陸上部のあいつら足はやすぎ、1人おいていかれかけて泣きそうになった。 とりあえずフードコートへ落ち着き、Bが見たあの軍服の男のニヤけ顔が人間の形相ではないように思えたこと、Aと俺が1時間前にも同じ場所であの男とすれ違った事、俺がその年のはじめ辺りからあの男を見かけるようになったことを話した。 お昼時でお腹も空いていよう頃だったが、恐怖体験のおかげで皆食欲がなくなってしまい、かと言って何も食べずフードコートに居座るのは無作法だということで、情けなく男3人で1つのフライドポテトを暫く無言でつつきながら食べた。 沈黙を破ったのはA A「俺、薄暗くなってからあの駅に戻るのすげえ嫌なんだけど」 俺「バカおめえそういうこというんじゃねえよ…」 B「明るいうちにもどるか、もう遊ぶテンションじゃねえよ…」 中学の頃なんかは比較的やんちゃしてつるんでいた俺達は、3人ピッタリと身を寄せながら駅まで引き返し、そのまま解散するのもおそろしくなってしまいその日は地元の駅から一番近くに住んでいる自分の家に泊まることになった。 俺の両親は土日には必ず家にいられるような仕事をしていたので、側に大人がいてくれるという安心感ですっかり落ち着きを取り戻していた。 B「明日も休みだけどどうするよ」 俺「うちの周りじゃやることなんもないよ?」 A「明日なら、兄貴がいるからどこか連れてってもらおうぜ」 B「流石に日曜は彼女と出かけたりするんじゃねーの?」 A「それならこの前別れたくせーから大丈夫!」 俺、B「……」 Aには3つ離れた兄、Bには姉がいて 同級生だったAの兄とBの姉は俺達が厨房だった頃から付き合ってた。 俺「それお前の兄ちゃんBに会うのまあまあ気まずいやつじゃない?」 B「姉ちゃん…聞いてねえわ…」 A「大丈夫、なんか今いい感じの相手がいるつってたから」 B「それは尚更明日暇してないっしょ!」 俺「うわ、お前の兄ちゃんって感じ」 A「どういうことだよ!っていうか言いつけるぞお前それ!」 俺「すまん、それはやめて」 すっかり昼間のことを忘れて盛り上がってきた俺達は、翌日Aが呼び出したAの兄の車で隣町まで遊びに行くことになった。 隣町には昨日遊びに行ったショッピングモールの何倍も大きな、それこそ各地から旅行客が立ち寄るような大きな施設があり 「やっぱ田舎とはちげーな!」 なんて言いながらゲームセンターで散財したり、映画を見たりとひと通りあそび倒した。(大型ショッピングモール等があるだけで所詮は田舎です) 帰りはAの兄が車でそれぞれの家に送り届けてくれるとのことで、Bの家から順に向かう事になった。 しばらくドライブをしていると、突然Aが 「昨日すげー事があったんだよ!」と 駅近くで見た軍服の男の話をしはじめた。 このタイミングでそんな思い出させるような話するんじゃねーよ…と思いながら後部座席に座っていた俺は、うんざりしたような顔のBと目があって思わずフフッと笑ってしまう。 A兄「B、お前この話姉ちゃんにするんじゃないぞ」 B「えっ?」 A兄「ここしばらく、なにか変なものの視線を感じるとか言ってて変だったんだ。心配ならお祓いでもしにいこうって言ったんだけど、それはイヤだというし…とにかく、黙っとけ」 俺「え、その、変だったのっていつ頃からですか…?」 A兄「今年の2月くらい。それがしばらく続いてよ、そしたらしまいにはその何かとすれ違った感じがする時があるとか言い出してよ…。そんときに、何かが焼け焦げたようなにおいがするとか言い出して…とにかくおかしかった。突然別れようって言われたきり連絡つかねえしな」 A兄はB姉の事を心配しているような、突然別れを告げられたことに起こっているような口調だった。 B「姉ちゃん、そんなこと家じゃ一言もいわなかったすよ…A兄さんにだけ話したのかな…」 A兄「わかんねえ、とりあえずお前んち着いたら姉ちゃん引っ張ってきてくれ。直接話つけないと俺も納得いかねえんだ」 A「なんだよ〜それ、今いい感じの子はどうしたんだよ?」 兄をおちょくるように喋るA。 A兄「バカお前!余計なこと言うんじゃねえよ、それは関係ねえんだってマジで!」 A「ほ〜ん」 そんなこんなでBの家の玄関先まできた俺達。 「姉ちゃん連れてくるから待ってて!」 と2階への階段を駆け上がっていくB 少しして、Bの姉が階段を降りて玄関まで出てきた。 「えっ、なんで」 Aの兄を見るなり走って自室へ引っ込もうとするB姉。 すかさず玄関に上がりその手を掴み止めるA兄。あんたいつの間に靴脱いだんだ。 B姉「なんで?やめて、離して…もういいの…」 A兄「いいことないだろ!俺はお前の口から全部聞くまで終われない!」 B姉「私最近変だから、きっと嫌いになるし…移ったらイヤなの…」 A兄「おれに嫌気がさした訳じゃないんだな!」 B姉「違う!そんなこと絶対にない!」 このセリフを聞くなりそのまま強引にB姉の手を引き自分の胸元に抱きとめるA兄。 凄い、流石今現在進行系でいい感じの相手がいる男だ。 AとBは自分の兄姉のそんなシーン見たかないよって感じで、俺を引っ張り玄関の戸を閉める。 A「なんかおれの兄貴あんなですまん…」 B「どっちもバカなんだ、自分が物語の主人公だと勘違いしてやがる」 俺「辛辣!弟共辛辣!いいじゃん、純愛っぽい感じで。Aの兄ちゃんはどうかしらないけど」 B「嘘であの抱き締めが出来るもんかい」 A「俺の兄貴はすごい役者になるかもしんねー」 玄関の前のちょっとした階段に腰掛けながら好き放題言う俺達。 カチッ、カチッ ポケットから出したライターと、おそらく自分の兄の車から失敬したタバコに火をつけるA 俺「なにおまえ、タバコなんて吸うようになったの?」 B「うわ、田舎のヤンキーみたい」 A「ここは田舎じゃアホたれ、こういうのをこっそりやらんやつのことをヤンキーと言うんじゃ」 俺「なになに、自分のタバコはカッコつけじゃねーってか?」 B「やだね〜!どれどれ拙者にもひとつ…」 俺「何だお前も吸うのか?!」 A「おまえさん、隠れて夜ベランダに出てタバコ吸ってるのご両親にバレてはりまっせ?」 俺「マジ??!?」 玄関クソ田舎ラブストーリーが展開されているところから扉を1つ隔てて、俺達はタバコを加えながら田舎の多感な高校生に浸っていた。 暫くして玄関の扉が開き、目を真っ赤に泣きはらしたBの姉と、A兄が出てきた。 A兄「うわ!お前らおれのラッキー勝手に吸ったろ、タバコくせ!」 B姉「うわー、やだやだヤンキーだ〜」 B「そのタバコくせえのとずっと付き合ってただろうがよ」 A兄「あっテメ、このやろ〜」 A兄に頭をわしわしされるB。 B姉「とりあえず、みんな上がって」 ヤニ臭い男共3人と、一通りいい男を演じきったA兄はBの家に上がり、Bの姉がここしばらくおかしかった話について聞くことになった。 要約するとこうだ。 高校卒業後、地元の会社に就職したB姉がたまたま例の駅前に立ち寄った時の事。 駅の入口付近で何かジメッとした視線を感じ、そこから時折なにかに自分が監視されているような気がしていた。 薄気味悪い違和感が半年くらい続いた頃、その視線を感じるときに必ず何かが焼け焦げたにおいがするようになる。 違和感を覚えるタイミングが、A兄と一緒にいる時と重なる事が多いことに気付き、何かA兄に悪いことが起こるような気がして別れを切り出したそうだ。 特に霊感のある人物が身近にいるわけでもなかった俺達は、その話を聞いて きっとあの駅の近くに何か変なものが彷徨っていて、たまたまそれを感じでしまったBの姉や目撃してしまった俺が近い存在であるAやBにも同じタイミングであの男を見せてしまったのだろうと、適当な結論を出した。 そこでポロっと、Bの姉がおそろしいことを口にした。 B姉「ブーツ履いてた、私見たかも…」 俺「えっ」 A「じゃあやっぱ俺たちが見たのと同じってこと?」 B姉「わかんない、あの日はなんか怖かったし気持ちが悪くて下向いて歩いてたから、でもなんか見た!変なブーツみたいな、片脚の…」 A「片脚…?」 ここでB姉が急に嘔吐してしまい、これ以上はやめようということでその日は解散になった。 A兄がB姉に付き添うからということで車送ってもらえなくなった俺とAは、A兄とB姉カップル顔負けのベッタリ具合で帰路についた。 翌週土曜日、お祓いをしてもらうためにA兄の車でお寺に行くことになった。 ちなみにこの土曜日を迎えるまであの駅に近付くのが怖かった俺は家から自転車で片道1時間かけ汗だくになりながら学校に通った。 お寺につくと、少しイカつい感じの坊さんが待っていましたと言わんばかりに小走りで出てきた。A兄が事前に電話で色々話をしていてくれたようだった。 念の為A兄も一緒に皆でお堂でお祓いを受け、拍子抜けしてしまうくらいあっさりとその儀式は終わった。 坊さんに菓子折りなんかを渡して、一通りお礼をした。皆で渡そうとしていた気持ち程度のお金が入った封は受け取って貰えなかった。 本当にありがとうございました、と再度礼をしてA兄の車に戻ろうとしたとき 俺だけが「ちょっと」と坊さんに引き止められた。 少し待ってて!とみんなを先に車に戻らせて、再度坊さんに続いてお堂に入った。 坊さん「私は〇〇というもので、長くこの仕事をしているけれど、これを人に渡すのははじめてです」 と、傍らにある棚の奥の方からおおきな巾着取り出して、その中身を俺に手渡した。 脇差にも及ばない、ドス?くらいの 15センチものさしより少し長い、びっしりと龍の彫刻の入った鍔のない刀のような物がその巾着には入っていた。 坊さん「これは△△セイリュウトウ(ソウリュウトウ?)と言って、簡単に言ってしまえば持つものを霊的な物から遠ざける刀です。どのような経緯で生まれたかは存じておりませんが、先代にこのようなお祓いの儀を執り行うことがあったとき、渡すようにと言われておりました。」 いきなりのことでかなり動転していたが、どうして俺だけなのかと気になり、恐ろしかったが坊さんに訪ねた。 俺「どうして、俺…?なんでしょうか…?」 すると坊さんは、とても優しい表情と口調で、怖がらずに聞いてくださいねと前置いてから話した 坊さん「お連れの方達は、先程のお祓いでまず大丈夫でしょう。ただ、あなただけはそのまま返すわけにはいかなかった。何故かはわかりませんが、悪いものがあなたに成り代わろうとしています。あなたに危害を加えようというものではありません、ただ、生前にやり遺した何かをあなたに代わって果たそうとしているようです。」 何が何だか分からないまま、得体の知れない恐怖で額が冷たい汗でビシャビシャになっていくのがわかった。 坊さん「あなた方に悪さをはたらいてしまったあの者が、あなたを見つけ、そしてあなたに自分の成せなかった事を代わりに果たしてもらえる才と言いますか、何かを見出してしまったようです。正直、いつ取って替わられてしまってもおかしく無かった程にあなたの後ろからその者の念を感じます。」 オイオイオイ、ふざんけんよ、冗談じゃねえ、いい加減にしろよ… 俺は足に力が入らなくなってしまい、思わずそこにへたれこんでしまった。 坊さん「でもね、大事なお話はこれからです。あなたの事を、とても大事に、強く守っている血縁の方、もしくはご祖先の霊の力を感じます。ずっと、あなたの身体にそれが入り込もうとするのを睨みつけるように拒んでいます。」 俺「そう…なんですか…全然霊感とかないので…さっぱりなんですが…」 坊さん「あなたの血縁やご先祖様に、これは何でしょう、料亭の板前さんのような…そういった仕事をされていた方がいらっしゃいましたか?」 板前では無かったけれど、そういった格好をしていた人物に心当たりがあった。 俺「じいちゃん…多分…じいちゃんですそれ…ひいじいちゃんかもわからないけれど…」 坊さん「ではきっと、そのお祖父様かな?ずっとあなたを優しく見守るように側にいらっしゃいます」 さっきまで恐怖でいっぱいだった気持ちが、すっと溶けていくような感覚と、なんだか懐かしいじいちゃんの笑った顔が目に浮かんで、思わず涙が溢れた。 俺が小学生の頃にこの世を去ったじいちゃん。遊びに行くたびに将棋を打つのだが、子供相手に1ミリも手加減をしない。 俺は負けまいとたくさん将棋を勉強して何度も挑んだ。だんだんと一手に時間をかけて、時折悩ましそうなポーズをとりながら嬉しそうに 「おまえ強くなったなあ」 とつぶやく、そんな時のじいちゃんの顔。 とにかく嬉しいような悲しいような気持ちで堪らなかった。おれはボロボロ泣いた。 俺が落ち着くのを待ってから、坊さんがさっきの刀のような何かを丁寧に巾着にしまい直し、手渡してくれた 坊さん「これを必ず、肌見放さず身に着けていてください。何か違和感を感じたり、危ないと思ったときは少しだけこの刀を鞘から抜いて。最後まで抜刀してはいけません、すこし、ほんの少しだけで良いです。」 俺「結構でかいので、学校とかには持っていけないかもしれないです…」 坊さん「そうしたら、かばんや自分がよく身につけるものと一緒に置くようにしてください。あなたを守る守護霊の手助けとなるでしょう」 全然訳がわからなかったけれど、ハイ!、ハイ!と必死で坊さんの話を聞いた。 坊さん「それがいつになるかはわかりませんが、どこかでもう大丈夫と感じる頃が来るでしょう。そうしましたら、その時にまた、ここにそれを返しに来てください。とにかく、安心するまではずっと、そばに置いてあげてください。」 わかりました、ありがとうございますと何度もお礼をして、俺はA兄の車へと戻った。 坊さんは、寺の敷地から車がいなくなるまでずっと見守るように俺たちを見送ってくれた。 A兄「随分かかったな、そしてお前その顔どうした?」 B姉「えっ、なに?どうしたの??!」 俺「ああ、ちょっと、俺がたるんでいたから説教ついでに有り難いお話を聞いてきたんだよ、それがすげえいい話だったもんで…」 B「おれたちはちゃんとしてるから、説教無しってことかー」 A「だなー」 俺「バカ、お前らはもう説教してどうにかなる段階じゃないんだよ」 なんてふざけた事を言い合いながらそれぞれの家へと帰った。 別に正直に話しても良かったのだけれど、なんとなく自分の心の中に大事に置いておきたい気分だったのでテキトー言って誤魔化した。 あのお祓い以来、Bの姉も自分も、皆変なものを見たり聞いたり感じたりするような事は無かった。 俺はとにかく渡された巾着を通学用のかばんの横のポケットにしまって生活した。 はじめはおそろしくて学ランの内ポケットにしまっていたりしたのだけれど、あまりに重たいのでかばんに入れることにしたのだった。 それからしばらくたって、高校を卒業し、勉強不足で見事に浪人した19歳の冬。 予備校から自宅へと戻り、ふとベランダに出てタバコに火をつけようとしたその時 ライターの火の灯りの先に白い装束のような(天狗みたいに見えた)何かがこちらを向いて立っているのが見えた。 次に同じ所に視線を落としたときに、もうその姿は無かった。 不思議と「またか」とは思わなかった。 まずライターの灯りごときでそんな先にある何かが照らされて見えるわけもないし、色々わからないことだらけではあったけれど 本当に直感で、これが坊さんの言っていた「大丈夫だと感じる頃」なんだろうなと思った。 何故か最後に一瞬みたあの白装束の何かから、優しさというか、暖かさというか、そんなものを感じたのだった。 どちらかといえば、恐怖体験はその後。 車の免許をとって自分の足であのお寺へと迎えるようになった俺は、あのナントカソウリュウトウ?だかを返すために坊さんに会いに行った。 以前足を運んだときとは違い、お堂の扉はしまり、庭先を掃除しているおじさんが1人いるだけだった。 「すみません、〇〇というお坊さんこちらに今日いらしてますか?」 とおじさんに尋ねると、ちょっとまっていてね、呼んでくるからーと行ってしまった。 少しして、俺の知らない別の坊さんが出てきて、丁寧に挨拶をしてきた。 俺「今日は〇〇さんはいらっしゃらない感じですかね、預かっていたものがあるのでお返ししに来たのですが」 すると、不思議そうな表情を浮かべるアナザー坊さん。 坊さん2「いえ、うちにはそのような名前のものはおりませんでして…とにかく、お話をお伺いしますので中にお入りください」 いやね、背中からサーッと血の気が引く感じがしたよね。いない?どういうこと?何故? いやまてよ、もしかするともう引退してしまって、とかそういうことかもしれないじゃないか、なんて思ったりもしたのだけれどそんな期待はあっさりと打ち砕かれた。 そもそもそこのお寺にそんな名前の坊さんがいた事は1度も無いのと、俺が返した巾着のことをそこにいた坊さんが誰も知らなかった。 とりあえず、お返しいたします! と、半ば押し付けるような形で菓子折りと一緒に坊さんに渡して俺は寺をあとにしたのだが、そもそも何故俺があの寺に一人で赴いたのか。 それはあの一件に関わった皆が、1年足らずであの件のことをすっかり忘れてしまっていたからだ。口裏を合わせて俺をからかっている様子もなかったし、逆に俺の様子がおかしいと心配までされる始末だった。 ココにこんな話を書き溜めて投げている俺自身も、歳を重ねる毎にあの寺の名前、坊さんの名前と順に忘れてしまい、2年弱あまり預かり肌見放さず持っていたあの刀の名前の記憶さえも朧げになってきている。 ここにしっかりとあの刀の名前がかけないというのも、そのためである。 でもきっと、それで良いのだろう。 なんだかとっても長くなってしまったけれど、これが俺が高校生のとある日に体験した奇妙な話の全てです。 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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