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中編
先に残った記録
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1週間前
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あの倉庫は、地元じゃ有名だった。

港湾地区の外れにあって、もう何年も使われていない冷凍倉庫だ。

取り壊し予定は何度も出たらしいが、地権が絡んで話が流れ続けている。

肝試しだの心霊スポットだのという扱いもされていたが、俺にとっては単なる廃構造物だった。

俺は建築学科で、卒論のテーマは戦後の冷蔵・冷凍施設の構造変遷だった。

あの倉庫は内部の梁や断熱層が古い形式のまま残っていて、図面と実物を照合するには最高の教材だった。

三年前の夏、ゼミ仲間を四人誘って中を見に行った。

俺、佐伯、それから三人。佐伯は写真が趣味で、何でもかんでも記録に残したがる男だった。

倉庫に入るときのルールは決めていた。

一人で奥に行かない。

フラッシュは使わない。

撮影は構造物だけ。人は撮らない。

理由は単純で、床が抜けている場所が多く、視界を乱すと危険だったからだ。心霊的な配慮ではない。

だがその日、佐伯だけは例外を作った。

新しいミラーレスを買ったばかりで、「暗所性能のテストになる」と言って聞かなかった。

人を撮らないというルールも、「後ろ姿ならいいだろ」と軽く流した。

内部は予想以上に冷えた空気が残っていて、夏なのに吐く息が白かった。

天井の高い空間に足音が反響し、どこからか水の垂れる音が混じっていた。

二時間ほどで引き上げた。怪我人もなく、変な音を聞いたわけでもない。

拍子抜けするほど普通の探索だった。

異変は、解散前に寄ったファミレスで起きた。

佐伯が撮った写真をタブレットに映して、みんなで確認していた。

配管、梁、断熱材。順調だった。

途中、俺が撮ったはずの通路写真が出てきた。

通路の奥、シャッターの前に、誰かが立っている。作業着姿で、こちらに背を向けている。顔は見えない。

「誰だよ、これ」

全員が首を横に振った。そんな人間はいなかった。

俺もその通路を撮った記憶はあるが、シャッター前には誰もいなかった。

さらに数枚進めると、その人物は床に座り込んでいた。

次の写真では、横倒しになっている。

床の色が、そこだけ黒ずんで見えた。

場の空気が一気に重くなった。佐伯は「知らない。

俺は撮ってない」と繰り返したが、データのタイムスタンプは確かにその日の探索中だった。

念のため通報しようという話になり、佐伯が店の外で電話をかけた。戻ってきたとき、顔色が悪かった。

「警備会社が管理してるらしい。中は確認したけど、人はいなかったって」

俺たちは半信半疑で、今日はもう帰ろうと解散した。

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幽霊より人間が怖いタイプです。

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