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3週間前
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深海は、最初から静かだったわけではない。

静かになってしまったのだ。

田所は、海底調査会社の現場要員として十年以上働いている。調査船の中で目を覚ますと、いつも同じ音が聞こえる。低く唸るエンジン音と、通信機の無意味なノイズ。かつては胸が高鳴った。未知の沈没船、誰も見たことのない遺物。人類史の空白を埋める仕事だと信じていた。

だが、いつからか報告書を書く意味が分からなくなった。

見つけても、引き揚げられない。

記録しても、誰も読まない。

写真を撮って、番号を振って、それで終わりだ。

ある日、田所は気づいた。

最近、沈没船が増えている。

事故の報告はない。嵐もない。戦争も起きていない。それなのに、調査範囲の海底には、昨日まで存在しなかったはずの船が沈んでいる。貨物船、漁船、時には小型の客船。どれも記録上は「未確認」。来歴が空白のまま、そこにある。

「気のせいだろう」

そう思おうとしたが、違和感は消えなかった。

船体が新しすぎる。

錆び方が揃いすぎている。

そして何より、沈み方が揃っている。

まるで、決まった手順で沈められたようだった。

本社からの通達は簡潔だった。

競争体制を導入する。

成果を数値化する。

調査員を二班に分ける。

田所は北海チームのリーダーに任命された。理由は不明だ。実績でも年功でもない。ただ名前が呼ばれた。それだけだ。もう一つの班は南極チーム。リーダーは村山。同期だが、特別親しいわけでもない。

競争が始まると、現場の空気は変わった。

誰が先に見つけるか。

誰が先に記録するか。

引き揚げは後回しだ。とにかく「発見」だ。

田所は次第に、調査の対象を見る目が変わっていくのを感じた。

船を、船として見なくなった。

ただの成果物、数値、記録対象。

ある日、深度計が異常な反応を示した。

通常の航路ではありえない地点。

しかも、浅すぎる。

潜航すると、そこには沈みきっていない船があった。

まだ浮力を失いきっていない。

船内灯が、微かに点いている。

田所は息を呑んだ。

無線を入れようとして、手が止まる。

規定では、未沈没船は対象外だ。

事故報告が優先される。

だが、競争の規定には、そんなことは書かれていない。

後方で、別の光が揺れた。

青い照明。

南極チームだ。

「こちら北海チーム。対象を確認した」

反射的にそう口にしていた。

通信を切ると、船はゆっくりと傾き始めた。

誰が何をしたのか、田所には分からない。

ただ、数分後、船は完全に沈んだ。

浮上後、記録は完璧だった。

沈没船一隻。

原因不明。

発見者、北海チーム。

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幽霊より人間が怖いタイプです。

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