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長編

おねえちゃん

匿名 2021年3月14日
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おねえちゃん。 私は最近、この言葉に敏感になってしまった。 妹の晴花が交通事故で死んでから、もう一年経った。塞ぎ込んで私に八つ当たりしていた義母は、 だいぶ精神も安定して来ている。 一応、我が家は平和だ。 …………………………私以外は。 私の母親は、私が中学生になって間もなく家を出て行った。 原因は父の不倫だ。 新しく来た母親はそれこそシンデレラの継母かと思うくらい意地悪な人だった。 物を隠したり壊したりは日常茶飯事、機嫌が悪い時には殴られる事もある。 私は徐々に精神を病む様になった。 その義母の連れ子で当時小学三年生の義妹の名は晴花。当時四歳だった。 義母は晴花ばかりを贔屓し、私は家族の中に居場所がない。 段々と友達の家を泊まり歩く様になり、言葉遣いも乱暴になって行った。 ある日、私は義母に晴花のお守りを頼まれて嫌々散歩に連れて行く事にした。 面倒くさかったが、義母の機嫌を損ねるとそれはそれでまた面倒くさい事になるのでとりあえず 引き受けた。 途中、コンビニに寄りアイスクリームを選んでいる晴花を見ている内、何故だか殺意が浮かんだ。 何でこいつばっかり幸せになりやがって………… 勿論してはいけない事だと分かっていた。 分かってはいたのに溢れ出て来る殺意を止める事は出来なかった。 エアコンの効いたコンビニの中にいる筈なのに、何故か身体がとても熱い。 その身体から吹き出す熱さについても理解していた。 知らず知らずの内に溜め込んでいた負の感情が、 マグマの様に吹き出している。 「ねぇ晴花、後で玩具買ってあげよっか?」 「いいの?お姉ちゃん大好きー!」 側から見れば仲の良い姉妹に見えるだろう。 晴花お気に入りの玩具屋は、交通事故が多発している道路に面している。 だから、晴花が勝手に飛び出した事にすれば、私は責任を追及されずに済む。 しかも好都合な事に、あの玩具屋の近くは人通りが少ない。 見つかる確率はかなり低いだろう。 コンビニで会計を済ませて玩具屋に向かう途中、 何故か嫌気がさした。 人を殺す、と言う事に対するものだ。 散々悩んだが、結論を出す前に玩具屋の前の道路に辿り着いてしまった。 どうしよう。 どうしよう。 どうしよう。 どうしよう。 今ここで殺さなければ、あの地獄の日々が続くだけだ。 でも半分とは言え血が繋がっている妹を殺す事は出来ない。 そんな正反対の思いを抱えたまま、私は道路に 踏み出した。 幸か不幸か、車はない。 ほっとしていると、突然大型トラックが飛び出して来た。 大型トラックは無いだろう。 私の命まで危ないでは無いか。 というか、さっきまでなかったのに何で急に…… 私の意識は、そこで終わった。 薬品の臭いがする。 あの独特の、嫌な臭いだ。 あれ………? 私、もしかして助かったのかな… 良かった。 そう言えば晴花はどうなったんだろう。 死んで無いと良いけど。 「先生!目を覚ましました!」 看護師さんと思しき人の声が聞こえる。 「聞こえますかー?」 「は………い」 「しゆか、目を覚ましたのか⁉︎良かった…三日間も寝ていたから…」 お父さんも心配してくれている 「ごめんなさい。ごめんなさい。本当に、ごめんなさいね…」 義母も涙を流している。 そっか。 やっぱり助かったんだ。 「あ、の…晴花は?」 「晴花はまだ意識不明よ。でもきっとすぐ目を覚ますわ」 「とにかく無事で良かった…ごめんな」 「本当にごめんなさい…」 幸いにも私は右足の骨に軽くヒビが入っただけだったが、晴花は打ち所が悪かったのかまだ目を覚ましていないと言う。 それを聞いて、とても嬉しかった。 そして一瞬でも血の繋がった妹に殺意を抱いていた事を恥ずかしく思い、とりあえずその日は寝た。   一週間後。私は傷も治り退院したが、晴花はまだ意識不明のままだった。 さらに1ヶ月後。 新学期が始まる頃に_____________       晴花は、死んでしまった。 悲しくて、それにとても驚いた。 結構泣いた。 そこから義母は、私に八つ当たりする様になった。 父は庇ってくれたが、何の効果も無かった。 確か義母の八つ当たりが始まってから少し経った頃。私はよく妹の夢を見た。 夢で見た妹は幸せそうで、嬉しかったが、 最後には顔中血塗れになりながら私の事を 「おねえちゃん」 と連呼するのだ。 怖くて神社に行き、なけなしのお小遣いでお祓いをしてもらった。 お祓いが終わった後、神主さんに言われた。 「妹さんは、貴女をとても羨ましがっている」 また、 「そして、とても憎んでいる」 とも言われた。  神主さんから 「危険だから持っていなさい」 とお守りを貰った。 そのお守りを常に持ち歩けば、危険な事にはならないらしい。 今ではもう夢を見る事は殆ど無くなった。 でも、久しぶりに見ると必ず悪い事が起きる。 またあの夢を見ない事を願うばかりだ。 おねえちゃんばかりずるい。 何でわたしの手を離したの? おねえちゃんも、死んじゃえばいい。 ねぇ?おねえちゃん。 おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃんおねえちゃん

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