
長編
旅路にて
匿名 2016年10月24日
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私の叔父が体験した不思議な出来事をお一つ。怖い話の箸休めにどうぞ。
随分と昔のお話。旅行好きの叔父は、愛車と共に日本全国津々浦々を巡る事が趣味だった。何の目的も無しに見知らぬ土地へ行っては其処の名産品をつつく、それが叔父流の旅行であった。
そんな彼が東北の方を旅していた時のこと。田舎の、今は使われていないのか、枯れた田んぼ景色を眺めながら愛車を走らせていると、道端に人が座り込んでいるのが見えた。近づいてみると、どうやらそれはお年寄りの様子。すると突然、その老人が手を挙げて車を止めろと促す様な仕草をした。
叔父は車を止め、何事かと窓を開けると老人が話しかけてきた。
「相すみませぬ、お若い方。散歩のつもりでここらを歩いていたのですが、足を痛めてしまいまして。この先にある村まででいいので、乗せては貰いませぬか?」
始めこそ怪訝に思った叔父だが、動けぬ老人を一人、置いておくのは忍びないと考えて快く了承する事にした。
老人「おお、有り難い。御礼は必ず致しますので、何卒お願いします。」
御礼は要らないと断りつつ、老人を助手席に乗せて叔父は再び出発した。田んぼも見飽きてきた彼にとっては、話相手ができて丁度よかったのだ。
道中、叔父は運転の暇潰しに老人から色々な話を聞いた。
曰く、老人はこの土地の生まれではなく、何十年も前にこちらに来たらしい。元々住んでいた所を追われ、また移住しては追われを繰り返し、ようやく落ち着いたのがここだったのだとか。
老人「冷たい世の中では御座いますが、儂を疎ましく思うのも、仕方がないのやもしれませぬ」
そう語る老人は何処か寂しそうだったらしい。
暫くして集落の様なものが見えた。かなり古い家が立ち並んでおり、人が住んでいる様には見えなかった、というか、どう見ても廃村だ。しかし
老人「おお、ここまでで十分でございます。ありがとうございました。」
と、車をおりた。
叔父は心配して、もう少し先に有るはずの町まで送りましょうか?と尋ねたが、
老人「いえ、住まいがこの近くなのです。本当にありがとうございました。」
と、頭を深く下げて立ち去ろうとした。
本人が言うならば仕方がない、と叔父も車を走らせようとすると、背中から 「ああ」と声が掛かり、
老人「礼にはなりませぬが、一つ忠告を。お若いの、戌の刻の十字路は鬼門でございます故、お気をつけて。」
どういう事だ?と叔父が振り向くと老人はもう居なくなっていた。
ぽかんとしている内に日も落ちかけてきたので、町まで急ごうと運転しながらも、やはり、あの人は一体何だったのかと叔父は考えずにはいられなかった。
すると突然、車が止まった。どうやらガス欠らしい。しかし前に寄った町で給油はしたばかりだった。叔父は不思議に思いつつ、最寄りのガソリンスタンドを調べ、電話した。
が、現在店員が二人しかいないので対応出来ないと断られた。仕方がなく、車を置いて彼は歩いて町まで向かった。
午後7時半、何とか町に着く叔父。一服し、取り敢えずホテルに行こうと地図で経路を確認し、再び歩きだす。
ボヤッとしながら歩いている内に前方に交差点が見えた。すると頭の片隅に老人の言葉が浮かんだ。
戌の刻の十字路は鬼門
避けようかと考えたがホテルは目と鼻の先だ。このまま突っ切ろうと交差点に躍り出た直後、右から激しいブレーキ音が聞こえた。何事かと振り向こうとしたところで、衝撃と共に叔父の意識は途絶えた。
目を覚ますと、病院のベットの上にだった。看護師が気付き、直ぐに医師が来た。
医師「意識が戻りましたか。貴方、車に轢かれて此処に運ばれて来たんですよ。何か身体に違和感はありませんか?」
叔父は困惑した。なにせ、車に轢かれたという割には何処にも怪我をしていないし、第一、どこも痛くない。そう告げると、医師も不思議そうに
医師「ええ、運が良かったのか上手い事ボンネットに乗ったらしいですよ。でも普通は、どこかしら怪我をするものなんですけど・・・。まあ、頭を打って気を失ったようなので一応精密検査を受けてください」
その後、医師と入れ替わりで警察が入ってきたそうだが、その話は割愛。ただ、検査を受けても異常がでなかった叔父は実質被害ゼロで医療費を受け取れることになったという事は記しておく。
即日退院した叔父はその足でガソリンスタンドへ向かった。店員の初老の男性に訳を話し携行缶を売ってもらう。男性は笑いながら、
男性「災難でしたな、何処でとまったんです?」
と聞いてきた。叔父が寂れた村の近くだと答えると、男性は驚いた顔をして言った。
男性「お客さん、あそこを通ったんですか?」
どういう事かと聞くと、どうやらこの土地の伝承であの廃村には貧乏神が住まうのだと言われているらしい。
男性「あの村も貧乏神によって寂れたのだと言われています。だから、あそこに近寄る人はあまりいないのです。お客さんのガス欠も、もしかしたら貧乏神のせいかもしれませんね」
車のもとまで戻り、給油をしながら叔父は考えた。
あれは本当に貧乏神だったのか?
彼が住まいを追われたのもその所為だったのではないか?と
しかし、それはどうでもいいことだった。事故にあっても無傷だったのは、おそらくあの老人のお陰であり、少なくとも自分にとっては、命の恩人かもしれないのだから。
そう思いつつ村の方向に頭を下げ、叔父は旅を再開した。どこからか、老人の笑い声が聞こえた気がした。
以上で終わりです。読んでくださった方
お付き合い有難うございました。
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