
終電間近の新宿駅、快速ホーム。
中央線の下りは深夜0時を過ぎると本数が極端に少なくなる。
私は0時12分発の高尾行に乗った。
E233系のオレンジ色の帯、10両編成。
新宿駅の6番ホームには、昼間の喧騒が嘘のように静けさが漂っていた。
車内はまばらだ。
私は真ん中寄りの5号車のドア付近に立ち、窓の外をぼんやり見ていた。
高円寺、阿佐ケ谷――
ここまでは何も異常はなかった。
ただ「車内アナウンスが少し小さいな」と思った程度だ。
阿佐ケ谷を出て、荻窪に向かう区間に入ったときだった。
窓の外、右手に見えるはずの中央線快速の高架下の街灯が、広い範囲で消えていた。
中央線のこの区間は高架だから、普通なら必ず下に街灯がある。
暗いところでも、工場か住宅の光は必ず見える。
だが、この夜は闇が続いた。
そして、荻窪駅に近づくはずの地点で、電車は妙にゆっくり走り続けた。
荻窪駅は島式ホーム(※中央線は上り・下りが同一ホームの左右に入る構造)だ。
だから近づけば必ずホームの強い照明が見える…はずなのに、なかなか光が見えてこない。
「故障かな」と思った瞬間、車内の照明がふっと弱くなり、すぐに戻った。
その“弱まった一瞬”で、私は見てしまった。
通路の中央に、黒いワンピースの女が立っている姿を。
髪が肩より少し長いほど。
顔は見えないが、俯いている。
電車が揺れているのに、彼女だけ微動だにしない。
照明が戻ると消えていた。
電車はようやく荻窪駅に滑り込んだ。
3番ホーム(下り)に停車する。
左右の壁は白いタイル、柱が細かく並ぶ特徴的な構造だ。
ホームの天井は低めで、昼間は人でいっぱいの場所だ。
だが、深夜の荻窪駅は異様に静かだ。
電車が停まると、風が抜ける音だけが聞こえた。
私と同じ車両の乗客が数人降りた。
しかし、車内を見ると――
黒いワンピースの女が、いつの間にか車端のドアの前に立っていた。
乗ってきた気配がない。
そもそもさっきまでいなかった。
ホームに降りようか迷っていると、女はゆっくり顔を上げた。
真っ白な顔。
黒目がやけに大きい。
私は反射的に別の出口から車内に戻った。
ホームに降りてはいけない気がしたのだ。
電車はドアを閉め、吉祥寺に向かった。
吉祥寺駅は**相対式ホーム(1・2番ホームが向かい合う構造)**で、
中央線下りは“2番ホーム側”に着く。
電車が近づけば、必ず右側に井の頭線の跨線橋が見えてくる。
だが、その夜は見慣れた跨線橋の光が、まるで霧に包まれたようにぼやけて見えた。
吉祥寺に着いた。
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