
「あの霧、見たか?」友人の隆二は、秋の夕暮れに訪れた森林公園のベンチで言った。彼は幼い頃からこの場所で遊び、色々な伝説を耳にしてきた。
「霧の中に入ったら、二度と戻れないって話だ」と続ける隆二の声はどこか真剣だった。彼の弟、健太はそんな隆二の話を小馬鹿にした。「そんなの、ただの迷信だろ?」しかし、隆二はその意見に動じることなく、彼自身が見たという不思議な現象を語り始めた。
その日、隆二は一人で森の奥へと足を運んだ。彼が進むにつれ、周囲の音が消え、静寂が広がっていった。まるで彼を拒むかのように。そこで彼は、紫色の極彩色の霧に包まれたエリアに遭遇した。美しくも不気味なその光景に魅了された彼は、思わず足を踏み入れてしまった。
「その時、何かに呼ばれた気がしたんだ」と隆二は言った。その瞬間、彼の視界がぼやけ、周囲の空気が変わったように感じた。彼はすぐにその場を離れようとしたが、体が動かなかった。すると、霧の中から何かが彼を引き寄せる感覚がした。
隆二の話に耳を傾けながら、健太は背筋が寒くなるのを感じた。友人の表情は、何かに取り憑かれたようだった。しばらくして、隆二は急に目を見開き、顔色を変えた。「あの時、何かが俺を見ていた…」と呟いた。
その後、隆二はその場所から逃げ出したと言ったが、彼の目の前には弟の姿が見えた。「俺も一緒に行く」と言い、健太は森に足を踏み入れた。兄の警告を無視して。
霧が濃くなるにつれ、健太の心臓は高鳴り、身の毛もよだつような恐怖が彼を包んだ。彼は周囲の静寂に包まれ、何も聞こえないことに気づいた。そして、彼の目の前には、隆二が言っていた「神の通り道」が現れた。
彼は思わずその場から後ずさり、急いで森を抜け出した。振り返った瞬間、兄の姿が見えなくなっていた。彼は恐怖に駆られ、山を駆け下りた。
数日後、隆二は戻らなかった。村の人々は彼を探したが、どこにも見当たらなかった。健太はその日以来、森を見るたびに、あの霧の中に何があったのか、何が彼を連れ去ったのかを考え続けている。
「もしかしたら、あの霧の中には本当に神様がいるのかもしれない…」健太はそう呟き、再び霧を思い浮かべた。あの日、隆二の目に映った恐怖が、今も彼の心に残り続けているのだった。
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