
大学時代、廃工場の近くに少し有名な男がいた。
「ぶひひひひ~いん」と豚のような声を上げながら、気ままに歩く男は、体格が良く、頭は薄い髪に覆われていた。普段はジャージ姿で、秋の夜でも薄着だったため、周囲の人々からは奇異の目で見られていた。
彼は地元の子供たちから「豚男」と呼ばれ、いつも笑い声と共に姿を現していた。夜遅くに帰る人々の中には、彼の存在を気に留めない者も多かった。
ある晩、友人と一緒に飲んだ帰り道、ふとした拍子に「ぶひひひひ~いん」という声が響いた。友人に「豚男の話」をしていると、その声が近づいてくるのに気づいた。
「豚男、面白そうだな」と酔った友人が言った。期待に胸を膨らませて待っていると、豚男の姿が見えたが、その日は何かが違った。
彼は両手に包丁を持ち、こちらに向かってくるではないか。
俺たちは恐怖に駆られ、全力で逃げ出した。豚男は「ぶひぶひ」と叫びながら、包丁を振り回し、思った以上に速く追いかけてきた。
逃げる途中、俺たちは必死で住宅街に飛び込み、何とか彼を振り切った。深夜の静かな通りを走り続け、ようやく豚男の声が遠ざかるのを感じた。
後日、あの日の件がニュースになり、警察に通報が相次いだことを知った。普段は人畜無害だった豚男が、なぜあの夜に包丁を持っていたのか、今でも謎だ。
ただ、あの時彼に捕まっていたら、どうなっていたのかと思うと、背筋が凍る思いがする。何があの男を変えてしまったのか、恐怖は今も心に残っている。
それ以来、俺たちは夜道を一人で歩くことができなくなった。豚男の存在は、ただの奇人ではなく、何か恐ろしいものに変わってしまったのだ。
あの日の出来事は、今でも夢に見ることがある。夜の静けさに包まれた廃工場の近くで、またあの声が聞こえてくるのではないかと。
あの豚男は、もう二度と現れないことを願っている。だが、もし再び出会ったら、果たしてどうすればいいのか…
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