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長編

トンネルの怪

ニック 2019年7月19日
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学生の頃、暇つぶしに夏の夜中に心霊スポットを巡るのが仲間内で流行していた。 その日は都内で有名な某トンネルへ俺含めて5人で向かった。時刻は深夜0時ごろ。 そのトンネルはちょっとした山の中腹にあり、今では使われていないため立ち入り禁止となっている古い隧道。噂ではトンネルを出た所にある家屋に異常者が乱入し、逃げ出した家人がトンネルの中で殺された・・ということになっていた。そしてその家屋は今や廃屋となり、その廃屋やトンネルの中に霊が出る、というのだ。 俺たちは各々懐中電灯を手に、廃屋とは反対側の入り口から真っ暗なトンネルの中に侵入した。有名な心霊スポットだったので、フェンスが破壊され、簡単に出入りできるようになっていたのだった。トンネルはかなり古い物で、大昔に手作業で掘られた代物だ。車が通れる幅はなく、むき出しのごつごつした山肌がコンクリで塗り固められた粗っぽいつくり。 前提として、俺はそれ以前からちょいちょい変なものを見たり体験したりすることがあり、勘違いかな?と思いつつ、霊感があるのかもな、と思っていた。 この日は男5人もいたので、みんな全然怖がっておらず、むしろ楽しげですらあった。トンネルが見えてきたときも「うわ~こえ~」とワイワイ騒ぎながら歩いていた。 トンネルの中に入るとひんやりとした空気が流れた。当然ながら出口も何も見えない完全な真っ暗闇。懐中電灯が照らす範囲しか視界が利かない。地面は漏水でべちゃべちゃのどろどろ。滴が落ちる音が狭いトンネル内に響いていた。 「うお~雰囲気あるな~」 「ここで人が殺されたってマジかよ~」 「こえ~~」 仲間たちも少なからず恐怖心は抱いていたのだと思う。だからこそあえておどけて恐怖心を誤魔化していただけだったのだろう。 そのとき俺は、不意に何者かの気配を感じた。 俺は2列になって進む5人の中で右後ろを歩いていた。 気配は右後ろだった。 ただの右後ろではない。 右足元だ。 すぐ後ろにいる。 とたんに血の気が引いた。 振り向こうにも勇気が出ず、俺はひたすら前だけを向いて歩いていた。 気配は俺の足元を這ってついてくる。ずり、ずり、ずり、・・と這い寄る音まで頭の中に響く。 するとその気配が、視界に捉えたわけではないのに脳内に鮮明に姿となって現れた。 小さな女の子だった。肩ぐらいまでの黒髪。白い服。匍匐前進をするように、俺の足元に這い寄ってくる。 俺は声を失った。 相変わらず仲間たちは笑いながらおどけて歩く。不思議と、その声に怒りを覚えた。急速に膨れ上がった不快感が俺の口を開いた。 「お前らうるせえ!静かにしろ!」 自分でも驚くほどの怒鳴り声に、仲間たちはビビって「お、おいおい、なんだよ急に・・」的な反応。それも当然。言った自分が一番驚いている。しかし止まらなかった。 「騒ぐ声がうるさいんだよ。静かに歩けよ!」 俺の豹変ぶりに、5人の中で特にビビりだった二人が「マジでやべえって。俺もう帰る」って具合でさっさと先に行ってしまい、残ったのは俺を含め3人。 残った2人は俺を心配しながらトンネルの出口まで付き添って歩いてくれた。その間も俺は足もとの幼女の姿がくっきりと「見えて」いて、死ぬほど恐ろしかった。 やがてトンネルが終わり、ようやく幼女の幻影?からも解放されたが、そこでまた俺を異変が襲った。 今度は懐中電灯の明かりがとてつもなく不快になったのだ。 「お前ら、今すぐ電気消せ。早く、早く消せって!」 電気を消してしまうと完全な闇だ。当然二人は困惑して消そうとしない。 「早く消せって言ってんだろ!!」 俺の剣幕に二人のうちの一人がいよいよ恐れをなし、「お、俺も先行ってっからよ」と逃亡。ついに俺ともう一人の二人だけが暗い廃屋とトンネルの前に残された。 残った友人Hは素直に懐中電灯を消してくれた。俺はとっくに消していたので、一瞬で俺たちは完全な暗闇の中に埋没した。 その途端、とほうもない解放感が俺を包んだ。ものすごく気分が楽になり、浮遊感に包まれたのだ。 俺、やばいかも・・・。 意識ではそう感じていても、体が勝手にトンネルのほうを向いていた。姿は見えないけれど、トンネルの中から何かが手招きしていた。そしてそこに行かねばならないという義務感が体の中で湧き起こった。 「Hももう帰ってていいよ。俺、もう一回トンネルの中入ってくるから」 真っ暗闇の中、俺は勝手にそんなことを言っていた。 「はあ?お前何言ってんだよマジで。大丈夫かよ?おい」 「うん。全然大丈夫。本当に大丈夫だから、Hももう帰っててよ。マジで心配ないからさ」 妙に落ち着いた俺の声に、Hはどんどん顔をひきつらせていた。俺は本気で自分の身が危ないと感じていた。しかし、足が勝手にトンネルに向かって進みだした。一歩進むごとにとんでもない安心感に襲われ、止められなかった。 トンネルの中で、何かが立ってこっちを見ていた。真っ暗闇なのに、なぜか俺にはその映像が「見えた」。 「おい!いい加減にしろって!やばいって!帰るぞ!」 「いいから、放っておいて先に帰ってろよ。俺は大丈夫だから」 「大丈夫じゃないって!」 トンネルまであと一歩という所で、Hが俺を羽交い絞めにした。 「帰るぞ!早く!」 「離せ!俺はトンネルに行くんだ!」 「いいから早く来い!」 「離せ!」 俺はHに力づくで引きずられ、山を下りた。先に逃げていた3名が俺たちを見つけ、車まで連れて行ってくれ、気の利く奴が持参していた塩を頭から振り掛けられ、とたんに俺は脱力した。 そこから車で帰る間、俺は頭がぼうっとして、体に力も入らず、ぼんやりしたままだった。 あれから二度と心霊スポットには行っていない。遊び半分で行くと、本当に危険なのだと身を持って知ったからだ。 特に中途半端に霊感を持つ人間は危険なのだと、後日人から聞いた。 これは大して怖くはないけど、紛れもなく俺の実体験だ。

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