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長編

噂のホテルにて

ひろ 2019年7月30日
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※ここで私が体験した話は紛れもない事実です。 しかし事実であるが故、それほど怖くはないかもしれません、という前置きを念のためにしておきますね。 体験したことを淡々と書いていきます。 私の地元で、霊が出るという噂のラブホテルがありました。 そのホテルは、連休やクリスマスなどの混みあうシーズンでも、絶対に満室になることはありませんでした。 学生の頃。 当時付き合っていた彼女とホテルを探していたとき、ことごとく周囲のホテルが満室だったことがありました。 夜も遅く遠出は難しかったので、選択肢はあの噂のホテルしかありませんでした。 彼女は怖がりだったので私はそこがいわくつきのホテルであることを伏せたまま、やむなくチェックインしたのでした。 部屋はコテージタイプ。それぞれが独立していて、部屋の前に車一台分の駐車スペースがあります。 私たちはバイクに二人乗りで来ていたので、そこにバイクを停めました。 その時、私の視界の隅に人魂のようなぼやっとした光が飛び回っているのが映りました。 (うわ、さっそくなんか見えたし) もちろん怖がりの彼女には何も言いません。 何も見なかったことにして部屋の中に入りました。 その部屋が、とにかく暗い。 照明がとかではなく、雰囲気が暗くて陰鬱としているのです。 彼女は特に気にしている様子はありませんでしたが、私は入るや否やいや~な予感がしていました。 そんなこんなで部屋に入ってわりとすぐだったと思います。 突然、部屋中の照明が消えたのです。 私も彼女もスイッチを一切いじっていませんでしたが、複数ある照明が一斉に消えました。 私は内心びっくりしましたが、ここで驚いたら彼女を怖がらせてしまうと思い、慌てて枕元の照明スイッチに手を伸ばし、照明をつけたり消したりしました。 「ちょっとやめてよ~びっくりしたでしょ~」 「あははは~」 と、私のお茶目な悪戯だと思い込ませたのです。 しかしこの後も数回、突然照明が消えることがありました。 そのたび私はお茶目な悪戯のふりを繰り返したのでした。 またこの手のホテルにはよくある「思い出ノート」がこの部屋にも置いてありました。 ここに泊まったカップルたちの落書き帳です。 私は何気なくそのノートを開いたのですが・・・・・ そこに、物凄くおぞましい絵が描かれていたのです。 言葉では上手く表現できないのですが。。 鬼のように目と口の吊り上った女の人の絵が描いてありました。女の人は裸で、その体がまっ黒く、物凄く強い筆圧で乱雑に塗りつぶされている絵でした。 絵はまるで子供が描いたような稚拙なものでしたが、鳥肌が立つほど気味が悪く、私は彼女に見せるわけにはいかないと、そっとノートを引き出しに隠しました。 とにかくこの時の私は、「彼女を怖がらせずにこの部屋で明日の朝を迎える」ことを使命に、行動していました。多少の気味悪さも我慢するしかありません。 そんなこんなで、風呂に入ることにしました。ここの部屋の風呂は、広めの浴室に大きな浴槽があるシンプルな造りで、脱衣所とは半透明の扉で仕切られていました。 私たちは一緒に風呂に入ることにしました。万が一彼女が部屋に一人でいるときに怪現象が起きたら大変だからです。 幸い彼女も快諾し、二人で入浴していたのですが・・・・・ 突然、半透明の扉の向こうに人影が立ったのです。 まっ黒い影は中肉中背の男性のようでした。 半透明なので顔つきまでは分かりませんが、輪郭のぼやけた人影が脱衣所からこちらを見つめているのです。 私は浴槽につかっていました。 彼女は洗髪中で、人影には気づいていません。 数秒でしょうか。 私は人影とじっと対峙しました。 (頼む、どこかへ行ってくれ。お願いだから彼女に気付かれないうちに消えてくれ) 心の中で唱えていました。 すると、その人影はすうっと部屋の方へ歩き去ったのです。 私はほっとすると同時に、今度は部屋の中が心配になりました。風呂上りに何かがいたらどうしよう、と。 しかし幸い、風呂上りに彼女と部屋に戻ってもそれらしい人影はおらず、安心しました。 いや正確には、私は恐ろしかったです。この部屋のどこかにあいつがいると思うと、そわそわしてしまいます。しかし今の所彼女にばれていない。それが救いでした。 そうしてようやく就寝することになりました。 当然やることはやっていましたから、彼女は疲れ果て、今すぐにでも眠れそう、といった感じでした。 ひとまず彼女に寝てもらえればこっちのものだと思っていた私は、部屋を暗くして、ベッドに横になりました。 彼女は隣で目を閉じていました。 あーーーーーーー ぞっとしました。 若い女のようなか細い声が部屋の中に小さく響いたのです。 ラブホ行かれた方はお分かりになると思いますが、この手のホテルは防音が当然なので、よほどの安宿でない限り、隣室の声が聞こえることはまずありません。おまけにこのホテルはコテージタイプで、各部屋が独立しているのでなおさらです。 もちろん、彼女も気づきました。 「・・・いま、何か聞こえた?」 彼女がそう言って目を開ける直前、私はテレビの電源を咄嗟に入れていました。 画面いっぱいに卑猥な映像が映し出され、卑猥な声が響きました。 「ああ、ごめんごめん、ちょっと眠くなるまでテレビつけようと思って」 「・・・・・音消してよ寝れないから」 「そうね、はい」 ・・・・・セーフでしたが、気持ち的にはアウトです。 なんださっきの声は。怖いじゃないか。 私は気が気でありませんでした。 またあの声が聞こえたら、今度こそ言い訳できません。 しかし幸いにも、その後妙な声が聞こえることはなく、無事、彼女は眠ってくれました。 ここで私はひとまず安心しました。 少なくとも朝までは彼女にばれる心配がなくなりました。 私も寝ようと、テレビを消して横になりました。 しかし、当然そう簡単には寝られません。 さっきの人影や、謎の声、ノートに書かれた気持ちの悪い絵のことが頭のなかをぐるぐる回ります。 するとどうでしょう。 今度は突然テレビがつくのです。勝手に。そして音量がどんどん上がっていくのです。勝手に。 やめてくれ!!! 私は慌ててスイッチを切りました。 これはもう完全に普通ではありません。 テレビは天井からぶら下がっていたので、コードを抜くにもどうしたらよいか分からず断念。そもそも部屋の照明もいつまた勝手につくか分からない。。 私は徹夜を覚悟しました。 翌朝。 結局ゆうべはあの後も照明が一度勝手につきましたが、それ以外は何も起きずに朝を迎えました。 私は途中うとうとしましたが、ほとんど一睡もせずにいました。 彼女には結局何も気づかれずに済み、私は大役を果たした気持ちでいっぱいでした。 その後数か月経って、彼女にホテルであった出来事を全て打ち明けたのですが、信じてもらえませんでした。彼女とはその後別れてしまいました。 あのホテルは、未だにずっと残っています。周囲のホテルは次々と閉店したり別のホテルになったりしているのに、なぜ閉店しないのか不思議なぐらい、あのホテルだけはずっと残っているのです。。。あの出来事からもう15年が経とうとしています。。。

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