
春のある夕方。
四十代の独身の俺は、何となく気分転換を兼ねて近くの廃工場を訪れた。かつて稼働していた工場が今は静まり返り、周囲には草が生い茂っている。工場内では、時折風が吹く音だけが響き、どこか不気味だった。
工場の奥には、アートとして展示された不用品が並べられていた。壊れた機械や古い家具、そして無造作に置かれたガラス瓶の中には、何やら異様なものが入っている。人々があまり近づかない場所だったが、俺は興味をそそられ、足を踏み入れた。
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しばらく歩き回っていると、奥の薄暗いスペースにたどり着いた。そこには、一枚の無地の白いシートが敷かれていて、何かが並べられているのが見えた。好奇心に駆られた俺は、しゃがみ込んでそれを覗き込んだ。
そこには、死んだ虫が整然と並んでいた。黒く艶のある昆虫が数十匹、まるで商品として陳列されているように見えた。驚きと共に、背筋が寒くなった。無性に気味が悪くなり、思わず声を上げそうになった。
その時、背後から声が聞こえた。
「いらっしゃいませ、どうぞご覧ください。」
振り返ると、年齢不詳の女が、薄暗い工場の陰からこちらを見ていた。彼女は淡い色のエプロンを身にまとい、表情は見えなかったが、微笑んでいるようだった。女の目の前には、さらに多くの虫が並べられていた。
俺は恐怖心を抱えながらも、興味が勝り、「これ、何ですか?」と聞いた。すると女は嬉しそうに答えた。
「特別なコレクションです。お好きなものを選んでください。」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。恐怖とともに、気持ち悪さが込み上げてきた。俺はその場を後にした。
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帰宅後もその出来事は頭から離れず、何かが心の奥に残った。食事も喉を通らず、ただソファに横たわっていた。
夜も遅くなり、ベランダに出てみると、外は静まり返っていた。すっかり暗くなり、星も見えない。そんな時、ポストの前で何かが落ちた音がした。拾い上げてみると、見覚えのない封筒だった。中には、見覚えのない黒い昆虫が入っていた。大きさは、少なくとも10センチはあった。驚きと恐怖で手が震えた。
さらに、封筒の中には一枚のメモが入っていた。そこにはこう書かれていた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。これが私のコレクションの一部です。ぜひまた来てください。」
不気味な気配を感じ、背後を振り返ると、あの女が立っていた。彼女は微笑みながら、じっとこちらを見つめている。
後日談:
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