
私の母は、私が高校に入学する前に一度だけ旅行に連れて行ってくれたことがあります。その時、選んだ宿は古びた旅館でした。母は旅行を楽しみにしていて、私もそれに付き合うつもりでした。
しかし、旅館に到着してから、私たちはすぐに不気味な雰囲気に気づきました。周囲には誰もおらず、静まり返った廊下はまるで時間が止まったようでした。部屋に入ると、母は「ここ、なんだか落ち着くね」と言いましたが、私はその言葉が不気味に感じられました。
初日の夜、私たちはすぐに寝ることにしました。しかし、寝ていると、上の階から「ずるずる」という音が響いてきました。何かが引きずられているような音。初めは気にしないようにしていましたが、音は何度も繰り返されるのです。
「お母さん、今の音、聞こえた?」
母は不安そうに目を開け、「うん、聞こえた。でも、きっと気のせいよ」と言いました。しかし、私たちの会話も虚しく、音は深夜に響き続けました。
次の日、母は旅館の主人に尋ねましたが、特に何も知らない様子でした。私たちが泊まっている部屋の上に何があるのかもわからないとのこと。それでも、母は気にせず観光を楽しむことにしましたが、私はその音が忘れられずにいました。
数日後、旅館に滞在した私たちは、やはりその不気味な音に悩まされ続けました。特に夜になると、音はますます大きくなり、私たちを不安にさせました。母も次第に疲れ果てていくように見えました。
ある晩、母は突然「この旅館は何かがおかしい」とつぶやきました。私は驚きましたが、同時に同じことを感じていたのでした。
そして、旅館の周囲を探るうちに、私たちは古い看板を見つけました。それは、かつてこの旅館で起きた悲劇的な事故について書かれていました。数年前、宿泊客が自殺したというのです。
その後、私たちはその夜の音の正体を知ることになります。翌日、母は夢の中で自殺した客の姿を見ることになりました。彼女は母に向かって「助けて」と叫んでいました。母は目を覚ますと、涙を流していました。
私はその時、母が何かを抱えていることに気づきました。私たちの旅行は、ただの観光ではなく、何かの因縁に巻き込まれていたのです。
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