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中編

人食い沼

匿名 4日前
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沼を見ていた老婆がようやく振り向きました。 「きゃあぁぁぁぁ!」 その顔を見た瞬間、私は思わず悲鳴をあげました。 老婆の顔は、左半分が白骨化していたのです。 雨でよくわからなかったのですが、顔の右側も腐って崩れ落ちる寸前のようです。 髪の毛は、まるで頭蓋骨から直接生えているように見えて、それが老婆の不気味さをいっそう増しています。 老婆は無言のまま私に近付いてきました。 崩れかけたその顔からは、なんの感情も 読み取ることは出来ません。 ただ、何も言わず迫ってくるその姿に、 私は底知れない恐怖を感じていました。 私は、慌てて自転車に飛び乗ると、全速力でペダルをこぎました。 ベチャ、ベチャ、ベチャ………。 私は、老婆の足音が執拗にあとを追ってくるのを、はっきりと感じていました。 かなりの速度を出しているはずなのに、 一向に振り切ることが出来ないのです。 けれども、怖くて振り向くことなど出来ません。 捕まったらどうなるか。 それを考えると、スピードを緩めることも出来ず、老婆から逃げることで頭がいっぱいになっていました。 ほんの一瞬、荷台をつかまれたような感覚を受けましたが、私はそれを無視してひたすら自転車を走らせつづけたのです。 しかし、永遠につづくかと思われた老婆の追跡は、不意に終わりを告げました。 私が森を出るのと同時に、後ろにずっと感じていた老婆の気配が消えたのです。 それでも、私は老婆がどこかにいるような気がして、自転車を止めることが出来ませんでした。 そして、激しい雨の中、自宅の前まで全速力で走ってきました。 自宅にたどり着き、恐る恐る振り返った私は、後ろに誰もいないのを確認してホッと胸を撫で下ろしました。 〈もしかすると、幻でも見たのかも知れない〉 半分白骨化した老婆に追いかけられたなんて、あまりにも現実離れしていて、私自身でも信じられませんでした。 ところが、フッと視線を落とした私は、全力で火照っていた身体が一瞬にして凍りついたような感覚を覚えました。 自転車の荷台には、雨に流されることもなく、指の形に泥がくっきりとこびりついていたのです。 数日後、泥は自然に落ちましたが、数年経ったいまでも、私はあの沼に近付くことが出来ません。

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  • 二見文庫の5分間怪談(1998年5月25日初版発行)からの転載ですね。
    サントニー
  • 人喰い沼って… カイジか笑
  • 痩せてて骨張ってると白骨化して見えるのかもしれないですね。 腐ってたのではなく泥じゃないの?
  • 霊を本当に見える人は解るけど、白骨が見える状態で現れることはないですよ。
  • おばあちゃん怖い
    パンパカパン
  • どこらへんが怖い?
    かご
  • 怖いですね。
    あらまさ
  • これは実話ですね。
    ココロ
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