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閉鎖された病室
長編

閉鎖された病室

スモーキー 2016年8月25日
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今まで心霊経験が1度もなかった私ですが、この時ばかりは背筋が凍る思いをしました。 私は以前、病院の事務で働いていました。 病院の規模はかなり古く、年期の入った建物でした。 患者さんが使うスペースは照明を明るくし、綺麗に清掃していますが、 患者さんから見えないところ、つまり裏方では書類が積み上げられ、電気も節電いい、点けていない箇所がありました。 全体的に裏方は薄暗い印象があったので、職員同士で霊を見たとか、当直中に事務室から変な足音が聞こえたとか噂は常々ありました。 私は当直もなく、あまり遅い時間に病院にいることがなかったので、そのような経験は一度もありませんでした。 それは私がまだ入社したての頃、他部署の手伝いでカルテ整理を任されたことがありました。 13時から16時くらいの3時間です。ちょうど眠たくなる時間帯でしたし、体を動かして目を覚まそうと考えておりましたので承諾しました。 カルテを扱っている部署は私たち事務室と同じ建物の3階です。 2階~9階までは病棟があり、患者さんが入院していました。 しかし3階だけは病棟がありません。 前からなぜ3階だけ病棟がないのか気にはなっていましたが、3階は3階で経理室や調達室、会議用の応接室があり、 事務員が主に使用していました。 その日1階にある事務室を出て階段を上り、3階の他部署の部屋に行きました。 他部署の先輩から支持を受け、紙カルテを番号順にもくもくと整理していました。 すると、カルテの紙がなくなったので取りに行くよと先輩に誘われたので部屋をあとにし、 薄暗い廊下を進んで、同じフロアのある1室に入りました。 そこはその部署の方が倉庫として使っているのでしょう。「倉庫」と呼ばれるその部屋は カルテ用の紙や書類が入った段ボールがたくさん積み上げられていました。 入ってすぐに先輩は慣れた手つきでガサガサ作業していましたが、私は何とも言えない違和感を感じていました。 なぜならそこは昔病棟として使っていたのでしょう。完全に4人部屋の病室なのです。 わかりやすく言えば、天井には4つのカーテンレールがあり、床にはベッドを置いていたらしき形跡があります。 窓はありますが、ガムテープできっちり閉じていました。 そしてなぜか左奥の箇所だけカーテンがついており、しっかりカーテンは閉じられていました。 まるでそこに誰か入院しているかのように…… 私「ここ、、」 先輩「あーそうなんだよ。昔は、内科…?だっけな。ここも病棟で、ほらあそこがナースセンターだったんだよ。」 廊下を見ると、確かにナースセンター特有のカウンターで仕切られた一角があります。 そこにも段ボールが積み上げられていました。 先輩「私が入社した時からさ、ここだけ病棟じゃなくて事務員のフロアなんだよね、だから蛍光灯とかないの。昼間なのに暗くって笑」 普段事務員しか使わないので、節電も兼ねてでしょう。電気はついていません。 薄暗い倉庫と廊下がなんとも言えず、気味悪いと感じていました。 無事に紙を見つけ、もといた部屋に戻りまた、作業を続けました。 単純作業ばかりしているとどうしても眠くなってきてしまいます。 柔らかな光が差し込むその部屋は私の睡魔を駆り立て、うつらうつらし始めてしまい、いつの間にか さっきまで気にしていたあの廊下のことなど忘れ去っていました。 私が水に浮かんだコルク状態であることに気付いた先輩は笑いながら 先輩「また、紙が少なくなってきたからさっきの場所にわかるように置いておいたしとってきてくれる?体動かしてリフレッシュしてきな!笑」 と言われ、眠そうにしているのを見られて恥ずかしさが込み上げ、「じゃあ…」と部屋を後にし、1人で先程の部屋に向かいました。 いざ扉の前に来るとやっぱりいい気はしません。何だかさっきよりも空気が重い。そんな感じがしました。 早く見つけて部屋に戻ろう!そう勇気を奮い立たせて、扉を開けました。 6月の初め頃だったので、部屋はむしっとしていました。 古い埃のにおい、紙のにおい、いろいろなにおいがします。アレルギー体質のためポケットからハンカチを取り出し口にくわえて埃を吸わないよう注意して探しました。 入ってすぐ手前の一角にカルテがいくつか置いてありました。 先程の先輩が整えてくださったようで探していた紙はすぐに見つかり、ハンカチをくわえたまま何束か手に取って立ち上がった時、どこからか視線を感じました。 ………なんだろう? 言葉ではうまく表現できませんが、その部屋にあるものがすべて私の方を見ている。1つの視線ではなく、多方面から視線を感じるのです。 ここには「物」しかないのに。。。 手にじんわりと汗をかき始めました。 嫌な感覚……。そう思って部屋を出ようと体の向きをかえたとき、先程の左奥の箇所が視界に入りました。 先程と同様、きっちりカーテンは閉められているのですが、何かが違います。 誰もいないはずなのに、カーテンの向こうにまるで人がベッドでうずくまっているようなシルエットが見えます。 背中を丸めて、右左にゆらゆら揺れています。 「……!?」 冷汗が一気に出て、体は小刻みに震え始めました。 まるで金縛りにあったかのように足は地面から離れず、視線だけはベッドの上でうごめく物体を凝視している、そんな状況でした。 (…おかしい!!さっきまで何もなかったし、、倉庫のはずなのに…!!) 頭がパニックになりながらも、なぜか「それ」に気付かれないよう声を押し殺していたとき 「それ」が左右から上下に揺れを変え、音こそしないものの、まるで苦しそうにせき込んでいるかのような動きになりました。 (苦しいのか……?) 病院で働くものとして、困っている人には手を貸さずにはいられない性分ですから、 一瞬、かわいそうにと思った瞬間…… 「     ヒッ……!ヒヒッ……!フッ!…   」 耳にダイレクトにその声が聞こえました。 いや、本当に私の耳元で息を吹きかけながらささやいているかのような、頭の中にその音が入ってきたような感覚でした。 「それ」はせき込んでいたのではなく、笑っていたのです。体を小刻みに震わせながら…… おかしくてたまらないとでもいうように……… 「………ギャーーー!!!!!」 とっさにくわえていたハンカチを落とし、拾う間もなく廊下に飛び出しました。 汗が体中から噴き出て、足はがくがくして思うように歩けません。 扉をあけっぱなしか、閉めたかどちらかわかりません。 それでも何とかこの異様な部屋から遠ざかろうと、すぐに廊下を駆け抜けました。 しかし廊下が明るく、また、階段を上がる人たちの声がしてきたので何とか気持ちが落ち着いてき、部屋に戻るころは動悸はするものの、 正常心を少し取り戻していました。 部屋に入ると、部屋を出る前と同じように先輩が仕事をしています。 何も変わらない風景がそこにはありました。 先輩に私があまりにも汗だくなので、あの部屋クーラーとか無いから暑かったよね~ と謝られましたが、椅子に座ると放心状態になった私には何も返す言葉がありませんでした。 先程の出来事は何だったのか…。 まさかあの部屋に誰かいたのか…? 色々な思考が飛び交うものの、もう忘れ去りたい一心であれは気のせいだった、見間違いだと自分に言い聞かせ仕事を続けました。 仕事を終えて下の事務室に戻るときも猛ダッシュで階段を駆け下り、その日は早々に自宅へ帰りました。 それから日は経ち、またいつもの忙しく業務に追われていたため、私はいつしかあの日の出来事を忘れていました。 ある日のこと、事務室でいつものように仕事をしていると、他部署のあの先輩が私のデスクにやってきました。 先輩「○○さん!お疲れさま~ 」 私「あっ…お疲れ様です。」 先輩「これ!これ○○さんのだよね?置いてあったよ~」 私「?」 そこで手渡しされたのは、ハンカチでした。 私「あっ…ありがとうございます! え?どこです?」 先輩「うん、倉庫のね、窓際に畳んで置いてあったんだ~」 私「……倉庫……!?」 一気にあの時の出来事が頭の中でフラッシュバックしました。 どっと冷汗が出ると同時に恐怖が込み上げてきます。 先輩「○○さん もしかして紙の場所わかりにくかった? 手前に置いといたつもりだったんだけど、あんな窓際まで行ったの笑」 私「いえ…そんなこと…」 あの時のことを振り返りますと、部屋を入ってすぐ手前に紙はあったので私は奥の窓際まで入っていません。 埃アレルギーもあるので長居はしたくないと思っていました。 しかし後日先輩が見つけたハンカチは、あの仕切られてたカーテンの近くの窓際だというのです。 しかも、綺麗に折りたたんで置いてあったそうです。 まるで、だれかが拾って畳み、よく見える窓際に置いておいたかのように。。。 私はそれ以上何も言えませんでした。 先輩からハンカチを受け取りましたが、だれが触ったのかわからないハンカチは忌々しいものにも見えました。 やっぱり「だれか」いたのだろうか…。 あの部屋のカーテンの中で笑っていたのは紛れもなく人だったのか、 しかしもう閉鎖されている病棟のため病人がいるはずありません。 それからその場所にはなるべく近づかないようにしていました。 もしかしたら、先輩のほかにもあの倉庫を使っている事務員が見つけてハンカチを畳んで置いてくれたのではないか、 そう私の中で無理やり解決しようと考えていました。 しかし翌年には建物が取り壊されることとなり、部署の大引越しのため、またあの部署の手伝いの案内が来ました。 正直嫌でしたが、断ることもできず、他の人にぴったりくっついて、あの部屋には一切入らないよう注意しました。 先輩たちがあの倉庫の中から段ボールをいくつも運んでいます。 廊下に立って、その様子をぼんやりと見ていたとき、私は気付いたのです。 なぜ、あの「なにか」を見て廊下に飛び出し、部屋まで走り抜けたとき、 廊下は明るかったのでしょう。 節電のため、蛍光灯は1本もなかったはずなのに……

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