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消えろ、来るな
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消えろ、来るな

12時間前
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これ、誰にも言ってないんだけど。

高校一年の夏、夜中に変なものに追いかけられたことがある。

あの頃の私はちょっとバカで、退屈で、何かやらかしたくて仕方なかった。だからその日も、家族が寝静まったあとそっと自転車で家を抜け出した。行き先は近所の中学校のプール。女子更衣室って、どんな感じなんだろうって、ただそれだけ。今考えると本当にくだらない。

夜中の一時過ぎ。田舎だから道は真っ暗で、車も人もいない。タイヤの音だけがやけに大きく響いていた。校庭の隅にある更衣室は校舎から少し離れていて、それだけで心細かった。ドアは閉まっていたが、横の小さな窓を引いたらあっさり開いた。建て付けが悪かったのか、鍵がかかっていなかったみたいだ。

中はじっとりしていて、古い木と湿気が混ざった匂いがした。ロッカーは扉がなく、床にはすのこ。想像していたような秘密は何もなく、ただの古びた空間だった。少しがっかりして外に出た、そのとき。

遠くから赤い光が揺れた。パトカーだと思い、反対側の道へ自転車を走らせた。そっちは街灯がほとんどなく、坂で、遠回りだった。

坂の途中に、小さな公園がある。息が上がって一瞬だけ立ち止まった。

公園の奥、ブランコのあたりに白っぽい何かがゆらゆらしていた。煙みたいだが、風はないのに揺れている。目を凝らすうちに輪郭が人に近づいていった。足はない。なのに、近づいてくる。

動いたら、向こうも動いた。距離が確実に縮まっていく。自転車を握り直して坂を下った。チェーンが軋む音と息が混ざって、ただ前だけを見ていた。

家に着くまで、振り返らなかった。玄関のドアを閉めた瞬間、あの気配は消えた。家の中はいつも通りだった。

少し後に、公園のトイレが全焼する事件があった。放火した人が、燃え上がる炎に向かって叫んでいたという。「消えろ」「来るな」と。

あの夜、私を追いかけてきたもの。あれは私を追っていたのか、それともあの人のほうにいたのか——今でも、答えが出ない。

真夏なのに、あの公園の前を通ると背中だけが冷える。

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