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長編

音楽室の少女

匿名 2023年8月9日
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俺の通っていた小学校は、校舎の端に体育館があり、2階に体育館、1階に図工室や音楽室などの実技教科の教室があった。 普通教室と体育館は2階の通路で繋がっているため、体育館のある棟の1階は図工室等に用がなければあまり立ち寄らない場所だった。 体育館の1階はなぜか床や壁が古めかしい感じで、よく言えばレトロ、悪く言えば不気味な感じだった。 ・・・ 俺が4年生のときのこと。 当時クラスで学校の怖い話がブームになり、俺の学校にもいくつかの噂があった。 そのなかのひとつに 「昔、ピアノが大好きな女の子がいて、家が貧しかった彼女は学校でピアノを弾くことが唯一の楽しみだった。だが、彼女はいじめを苦にして、ある日のこと・・。それからと言うもの、誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえる。」 と言うものだった。 ありきたりの話だが、当時ガキだった俺たちはそれらの話を面白半分に語り継いでいた。 そんなある日のこと。 図工の作品が仕上がってない俺は、放課後に図工室に残っていた。 はじめは先生の監督下で、他にも何人かいたが、先生は会議か何かでどこかに行き、作品を仕上げた子から帰っていき、気がついたら図工室には俺一人だった。 俺は作品を仕上げないとと必死になっている間にもだんだんと外が暗くなってきた。 そして、ようやく作品が仕上がって、図工室の教卓の上に名前の紙のついた作品を置いた。 そんなときである。 音楽室からピアノの音が聞こえた。 怪談話のことを知っている俺は急に怖くなった。 こんな時間に?? 音楽室には、たまに音楽クラブの子たちが練習に来るが、それなら廊下を歩く複数人の声とか聞いているはずである。 音楽室からは、何の前触れもなくピアノを弾く音が聞こえたのだ。 曲名は分からないが、発表会で演奏しそうなクラシックっぽい曲で、しかも結構上手だった。 俺は怖くなったが、一方で誰が弾いているのか気になった。 ピアノの音はずっと響いていて、音がリアルなので、幽霊とか幻覚とかにはいくらなんでもみえなかった。 じゃあ、誰なんだろう? 違う学年の子だったとしても、こんな素敵な曲を弾く子がどんな子か気になった。 俺は図工室を出て、おそるおそる音楽室に近づいた。ピアノの音はずっと聞こえていた。 そして音楽室の扉を開けると、そこは薄暗いのに明かりもついてなかった。ピアノの音は、ずっと聞こえている。 俺はグランドピアノの方を見ると・・ 思わず叫んでしまった。 薄暗いなか白いワンピースを着た白い肌、黒い髪の女の子がピアノを弾いていたのだ。 女の子は俺の声を聞いたからかピアノを止めて、俺の方を見て微笑んだ。 何だ、普通の女の子か。びっくりしたな! 女の子は 「どうしたの?そんな顔して。」 優しく語りかけた。 俺は女の子の方に近づきながら 「どうしてこんな暗い中、電気もつけずに?」 俺はそう言いながら電気をつけると、女の子も立ち上がって俺の方を見た。 「だって、その方が音に集中できるでしょ?」 俺の方を見る丸い綺麗な目。 女の子は、真っ白なワンピースを着て、白い肌、セミロングの綺麗な黒髪の可愛い女の子だった。体が大きいことから6年生くらいかな?と思った。 全く知らない子だが、他学年なら知らなくても不思議ではない。 俺は女の子に興味を持った。 「もう一回、聴かせてもらっていいかな?」 「うん。いいよ。」 女の子は微笑みながら、もう一度ピアノを弾きはじめた。 鍵盤の上を駆け巡る細くて長い綺麗な指、強弱や音の長さのテンポの良さ、聴くだけで感動する素晴らしい弾き方だった。 それを綺麗な女の子が弾いているのだから、もう優雅というほかなかった。 そして一通り引き終わると、拍手喝采する俺。 女の子は俺の方を向いて微笑んでいた。 そのあと、俺は椅子を近くに持ってきて、ピアノの椅子に座っている女の子と向かい合って話していた。 女の子は、はるかという名前で予想通り6年生の子だった。 はるかはおっとりとしながらも笑顔の絶えない素敵な子で背も俺よりずっと高いが、俺ははるかに見惚れていた。 俺たちは話が合い、しばらく話していた。 はるかは俺を見て微笑み 「可愛い顔してるね。」 と言った。俺も 「はるかさんも可愛いよ。」 そういうとはるかは嬉しそうに微笑んだ。 目の前には、可愛いワンピース姿のはるかがピアノの椅子にちょこんと座っていた。 はるかとしばらく話していると、外はすっかり暗くなってきた。 俺ははるかを見ながら 「もう帰るね。楽しかったよ。」 「私も!ありがとね!」 微笑むはるかに俺は 「良かったら、一緒に帰らない?」 と誘ってみたがはるかは 「私はもうちょっと練習してから帰る。」 「そっか、じゃあまたね。」 俺たちは笑顔で別れた。 音楽室を出ると、またはるかのピアノの音が響いていた。 俺は体育館の階段を登り、普通教室の校舎に行き、昇降口から帰っていった。 校庭を昇降口から門に向かう途中、またはるかのことが気になった。 まだピアノの練習をしてるんだろうか。 外はだいぶ暗くなっていて、女の子が一人で帰るのは心配な時間だった。 俺は少し気になって、校門から出て校舎に面した道路を遠回りして歩き、道路沿いに校舎の反対側に向かった。 校舎の反対側の日陰になるところに音楽室がある。 俺は道路を歩きながら、裏の校舎を見ると音楽室には明かりがついていなかった。 はるかがまた暗闇にしてピアノの練習をしているのではと思ったが、ピアノの音が聞こえてこない。ピアノの練習を続けているなら少しは聞こえそうなものだが。 俺は、はるかがもう帰ったのかなと思った。 考えてみれば、はるかが俺と一緒に帰るのも誰かに見られたら気まずかったのかもしれない。俺は諦めて帰っていった。 ・・・ その後、俺が学校ではるかとまた会うことはなかった。 6年生の子達や先生に聞いてみても、「はるか」という子はいないしいたこともないという。教室などの6年生の集合写真を見ても、はるからしき女の子は何度探しても見つからなかった。俺があのとき見たはるかという女の子は一体何者なんだろうか。

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