
友人のN子さんから聞いた昔の話です。
彼女が住んでいる山間の村には、流し人形という風習がありました。
竹で作った人形に子供の厄を移し、それを川に流して一年間の無病息災を願うのです。
彼女がまだ幼い頃、村では不幸な出来事が立て続けに起こりました。
子供たちが次々に病気にかかり、怪我をすることが多かったのです。
村人たちは、これは何かの祟りではないかと恐れ、噂を広めました。
N子さんの祖父は、「何か理由があるはずだ」と考え、流し人形を流した川を遡っていきました。
すると、竹でできた人形が、岸に引っかかっているのを見つけました。
「これが原因だ、流した厄がここで止まってしまい、子供たちに返っていたのだ」と思った祖父は、持っていたナイフで絡まった人形を切り離し、流しました。
その瞬間、病気に苦しんでいた子供たちは次第に回復し、その後は不吉な出来事が起こらなくなったそうです。
人形が引っかかっていたのは偶然だったのか、それとも誰かの仕業だったのかは分かりません。
それ以来、流し人形を行った後は、村の人々が川を下って流れを見守るようになったのです。
N子さんも幼い頃、そんな風に大人たちに見守られながら流し人形をしたことを思い出しました。
「世の中には不思議なことがたくさんありますね」と彼女は微笑みながら言いました。
その言葉に、ふと肌寒さを感じたのです。彼女の声の裏に、何か不安な響きが混じっているような気がしました。これが、厄が流された後に残る影なのかもしれません。彼女の表情が、ほんの少しだけ暗くなったように見えました。今も、流された人形がどこかに残っているのか、川の水がそれを静かに飲み込んでいるのか。
不安を抱えたまま、私は沈黙の中、彼女の言葉を思い返しました。何かが、まだ終わっていないように感じていました。彼女はただ微笑んでいるだけでしたが、その微笑みの裏には、何か恐ろしい秘密が隠されているのかもしれないと、心のどこかで思ったのです。
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