
大学生の頃、私は卒業研究のために夜遅くまで大学の病院で作業をしていた。助手の友人と一緒に倉庫で古いカルテを探していた時のことだ。倉庫は薄暗く、電気も点いていないため、懐中電灯の光だけが頼りだった。
友人が棚の上段に手を伸ばし、何かを探していると、私は下の段を整理していた。すると、何か硬いものに足を引っかけ、思わず足を滑らせた。
その拍子に、目の前の棚から古いカルテがひらひらと落ちてきた。私は慌ててそれを拾おうとしたが、その下に何かがあることに気づき、じっくりと覗き込んだ。
そこには、古びたカルテが無造作に置かれていたが、その上にあったのは、鮮やかな赤いインクで書かれた「再入院」の文字。その下には、顔写真が無い、名前だけの診断書が置かれていた。名前は確かに男子のもので、だがその写真は真っ黒で、まるで顔が消されているかのようだった。
そのカルテの臭いは、まるで新しいインクのようで、何かの記憶を呼び起こす。私は思わず息を飲み、友人にそのことを伝えようと振り返ったが、彼はもうそこにはいなかった。私の後ろで、誰かが微笑んでいる気配がした。冷たい風が背筋を撫でる。
その瞬間、私はその倉庫から逃げ出した。全てが妙に新鮮で、古いはずの記憶が、私を追いかけてくるようだった。結局、友人は見つからず、私は一人でその場所を後にした。あのカルテは、今もどこかで静かに眠っているのだろうか。私の心には、あの赤いインクの文字がずっと残っている。私が何かを忘れたかのように。
その夜の出来事は、私の中で永遠に記録されることになった。私の卒業研究は、結局あの病院の倉庫での出来事が元になったのかもしれない。恐怖が私を支配し、何もかもが曖昧になっていく。忘れかけていた記憶が、また私を呼び起こす。
あの夜の出来事は、決して忘れられない。私の心の中で、今も静かに息を潜めている。
そして、私は今でもその倉庫を通りかかるたびに、あの赤い字を思い出す。
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