
さっき、高1の旧館の話の最後に恐ろしい体験を俺は高校3年間ずっと別々の怪談を体験しているの文を書いた大学1年の俺だ。
あそこに書いた通り、俺は高1、高2、高3のそれぞれの時期、1年間を通して常にまったく別々の怪異をいくつも体験し続けていた。あの学校の土地自体に、完全に異常なレベルで目をつけられていたんだと思う。
旧館の「逆再生の呼吸」は5月半ばのことだったが、実はその前――高校生活が始まったばかりの「4月の半ば」、俺が入学して最初にはっきりと『異常』に巻き込まれた、怪談がある。
今回は、俺のあの狂った3年間の本当の始まりとなった、高1の最初のガチで最悪な記憶を、ここに吐き出させてほしい。
4月の半ば。入学式を終えてまだ4~5日しか経っていない頃の、ひどく雨が強い日の放課後だった。
新入生だった俺は、まだ学校の敷地全体の構造に慣れていなくて、雨宿りを兼ねて、新校舎の1階にある「あまり生徒が使わない奥の渡り廊下」を一人で歩いていた。
外はバケツをひっくり返したような土砂降りで、窓ガラスが激しく打ち付けられる音だけが、薄暗い廊下に響いていた。
ふと、自分の数メートル前方を、同じ1年の制服を着た男子生徒が歩いているのに気づいた。
後ろ姿しか見えなかったが、そいつの様子が明らかに普通じゃなかった。
傘も差さずに外から入ってきたのか、そいつの制服は頭から足元まで、絞れるほどびしょ濡れになっていた。
床には、そいつの足元から滴り落ちた水が、生々しい黒いシミとなって点々と続いていく。
「おい、大丈夫かよ……」
そう声をかけようとして、俺は喉の奥がヒュッと縮み上がった。
そいつ、歩いているのに、床が上履きで擦れる音も、濡れた服が擦れ合う音も、ペタペタという水音すらしない。土砂降りの雨の音の向こう側で、そいつだけが完全な「無音」を纏って、すーっと滑るように廊下の奥へ向かって歩いている。
恐怖で足が止まった。
引き返そうとしたその時、前を歩くそいつの「濡れた背中」が、じわじわと変形し始めた。
制服の生地が内側から、まるで無数の小さな手が蠢いているようにボコボコと波打ち、次の瞬間、そいつの首が骨の音が一切しないまま、真後ろに180度グニャリと回転した。
そいつの頭部には、目も、鼻も、口もなかった。
のっぺらぼうのような肉塊の真ん中に、まるで鋭利な刃物で横一文字に切り裂いたような【巨大な「亀裂」】が一つだけ、ぽっかりと開いていた。
後日談:
- 翌日、俺はこの恐怖をどうしても誰かに共有したくて、クラスの同級生や、部活の先輩たちに「昨日、奥の渡り廊下で濡れた変な奴を見なかったか」と聞いて回った。 だが、みんな一様に首を傾げた。 「いや、昨日の放課後は誰もあっちの廊下には行ってないはずだけど……。っていうか、そんな噂、聞いたこともないぞ」 そう。数週間後の5月の半ばに起きた「旧館の逆再生の呼吸」の怪談は、学校中の全員が噂だけは完全に知っていた。 だけど、この4月の「無音の足跡」の怪談は、同級生も、先輩も、OBも、先生たちすらも、【噂すら誰も聞いたことがない、この学校の歴史に存在しない怪異】だったんだ。 みんな、俺が新しい高校生活のストレスで見間違いをしたんだろ、と笑って取り合わなかった。 だが、あれは絶対に気のせいなんかじゃない。 なぜなら、あの怪談があってから大学1年になった今でも、俺の【左耳の聴力だけが、右耳のちょうど半分くらいにまで落ちたまま】戻っていないからだ。 病院に行っても原因不明。鼓膜にも神経にも異常はないと言われた。 そいつは本当に、俺の世界から「音の半分」を毟り取って、あの学校の廊下に消えていったんだ。 これが、4月。俺があの学校の土地で最初に体験した怪談だ。 そしてこのわずか数週間後の5月半ば、俺はあの全員が噂を知っている『旧館』へと、部活のパシリで足を踏み入れることになる。 次は6月だ
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