
長編
青いドレスを着た人形
JRU 2017年7月3日
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私がドラッグストアで働いていた時の事です。
当時私は新人社員として勤めだして、まだまだ分からない事だらけで毎日先輩たちに怒られながらの作業で嫌がらせもあり、辞めたい気持ちで嫌々仕事に行っていました。そんなある日の事でした。
朝出勤してきて、バックヤードにあるロッカーで身支度をしていると在庫が積まれた段ボールの上に青いドレスを着た人形がぽつんと置いてあったのです。
とても綺麗な人形でした。西洋の、顔は凛として気品が漂う感じです。
不思議に思い、後から出勤してきた社員さんにこの人形はどうしたのか?と尋ねてみました。すると、その人は逆に私に向かって不思議そうに言うのです。
「何言ってるの?前からずっとここにあったじゃない」と。
私は首を傾げましたが、その後他の人にも聞いた所、皆口を揃えて「ずっとここにあった」というので私の方がおかしいのだと思い、気付かなかっただけでずっとここにあったんだ、と最後は納得しました。
でもそれ以来、私はこのロッカールーム兼、休憩室にいるのが落ち着かなくなりました。なぜだかソワソワして辺りをキョロキョロと探ってしまうのです。
気付けばあの人形に視線がいきました。
見ていると息が詰まってくるような、重苦しさに包まれます。
昼休憩が特に嫌でした。いつも一人ずつ休憩に行かされるからです。
人形が気持ち悪く思えてからは私はあえて人形を見ないように休憩中は過ごしていました。人形から一番離れた場所で食事を取り、イヤホンでガンガン音楽を聞いて気を紛らわせたり。
ある時、珍しくアルバイトの子と一緒にに休憩を取るように言われました。
私たちは笑いながら楽しく休憩時間を過ごしていたのですが、急に寒気が走り、私は会話をやめ、思わず人形を見てしまったのです。
その様子にアルバイトの子は何かに気付いたのか、「もしかしてあの人形、なにかあります?」と聞いてきました。そこで私が否定すればよかったのですが、思わずコクンと頷いてしまった為に、アルバイトの子が妙にハイテンションになってしまったのです。
「うわー!マジか!やった!」などと言い、目をキラキラさせてケータイで写真をバシバシ取りまくりました。やめてくれと言っても聞いてくれず、連日写真を撮っては誰かに回したりどこかに投稿している様でした。
挙句の果てには「供養しなきゃ」と言いだして笑いながら線香をあげる仕末。
なんだか休憩室の空気が一気に変わった気がしました。
それから間もなく、おかしな事が起こり始めました。線香をあげていないにも関わらず休憩室が線香の臭いがするのです。私が休憩室にいる時にだけ線香の香りがしていました。
しかもそれはだんだんひどくなりました。においだけではなく、白い煙が漂っていたり、バックヤード全体が煙に包まれている時もありました。
そしてある時、本当にバックヤードから火が上がり火事になってしまったのです。たいしたことはないボヤ程度でしたが、店長は私をひどく怒りました。
なんでも、私が霊だのなんだの変な事を言って線香をあげているのが原因だと言うのです。
変な事は言ったかもしれないが線香はあげていないと言っても聞いてくれず犯人扱いをされ、今日でクビだと言われました。
悔しくて悲しくて、泣きながら休憩室へと駆け込んだ私の前にあの人形がありました。人形はカタカタと震えています。
驚いて見つめていると、横を向いていた人形がゆっくり私の方へ体を向けてきました。対面したと同時に激しくガタガタ揺れだします。
私は恐ろしくなり逃げるように家へと帰りました。家に帰っても心臓がばくばくして落ち着きません。
とりあえずお風呂に入ろうと思い、私は湯船に入りお湯に浸かりました。
立ちのぼる湯気がなんだかいつもより白く感じられた直後、また線香の臭いしてきました。あっ!と思った時には私の体は無数の手に拘束されていました。
湯船の中を白いいくつもの手が私に絡みついていたのです。
気を失いそうになりながらも何とか振り払い、急いでお風呂から出たのですがそんな私に母がおかしな事を言いました。
「なに三時間も入ってるの」と。
すぐに浴室から出たつもりが三時間もお風呂に入っていたらしく、確かに時計も回っていました。
何かがおかしい、と不安と恐怖でその日はなかなか寝付けませんでした。寝たらどうにかなってしまうとそれだけは感じていて、部屋を明るくしていたのですが、
突如電気が消えました。と同時にあの線香の臭いもしてきて、ヤバイ!と思った時にはすでに遅く、急に全身の力が抜けたように仰向けに倒れこむとすぐに金縛りに遭ってしまいました。
部屋の奥から何かが擦れるような音がしてきます。それはだんだん大きくなっていきました。
目だけを動かし私はその存在を確かめます。
あの青いドレスの人形でした。
あの人形が匍匐前進をしながら、ゆっくりこちらに向かってきます。
ゆっくり、ゆっくり……。
ついに私の足元へと来たかと思うと、私の体をよじ登り、そのまま顔の方へと這ってきました。
ゆっくり、ゆっくり……。
そうしてとうとう喉元へと来た時、人形は激しくガタガタ震えだします。
私は終始心の中で、やめて!来ないで!助けて!と叫んでいたのですが、そこで金縛りが解けたのか「やめて!」と大きな声を出す事が出来ました。
そこでパッと電気がつき、私は飛び起きました。もうすでに人形の姿はなく線香の臭いもしていません。
良かったと、汗ぐっしょりの額を手でぬぐい、深呼吸しようとしたその時、私は猛烈な吐き気に襲われました。
急いで洗面所に駆け込み吐き出したものを見て愕然としました。
私が吐いたのは、あの人形がかぶっていた青い帽子だったのです。
悲鳴をあげ、私は何かの気配に気付きました。そろそろと視線をずらし、目の前の鏡を見てみると、
そこには顔が半分焼きただれた女の顔がありました。肉がただれ、骨が見えている女の顔。その表情は死ぬ間際のような悶絶したものでした。
私はそこで意識を失いました。
取り憑かれたようにその後、キッチンを荒らしたと次の日母が教えてくれましたが、私はなにも覚えていません。
後日談:
- その後、何ヶ月かした頃に町で偶然バイトの子と再会しましたが、おかしなことに人形の事は彼女の記憶にはないのです。
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