
長編
お礼をしたいので 3
しもやん 3日前
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たあとも無気力な毎日を過ごしていた。
いったん自殺は思いとどまったものの、だからといって根本原因が解決したわけではない(自殺の理由についてはついに語らずじまいであった。もしかすると理由などなかったのかもしれない)。
ほとんど大学にも行かずに自宅へ引きこもり、所定の単位を取得できずに留年が確定した時点でいったん休学を申請。彼女はますます社会的に孤立していく。
その際にスマートフォンに登録されていたSNSや連絡先をすべて削除し、アカウントも根こそぎ抹消したのだという。そうして人間関係を断舎利すると、不思議と気分が晴れたのだそうだ。
心療内科に通って精神的な治療を受け、佐伯さんはみるみる持ち直していく。1年後には復学を果たし、生まれ変わった気分で大学生活を再開した。
自分と同じような悩みを抱える人びとの役に立ちたいという志のもと、臨床心理士の資格を取るために大学院へ進学し、苦心の末希望職種に就職。いまは社会人1年めの25歳である由。仕事は思い描いていた理想と必ずしも一致しないけれども、そうした齟齬も含めて毎日が新鮮である。それもすべては桐谷さんのおかげだと、佐伯さんは何度も感謝の意を述べてくれた。
資格取得の猛勉強から解放され、比較的時間に融通の効く社会人になってから、彼女は鈴鹿山脈北中部をしらみつぶしに登り始めたそうだ。4年前に彼女の自宅の最寄り駅まで送っていく際、どこの出身であるかをわたしは話したらしい。岐阜県民であることを脳裏に焼き付けていたので、①南部にはあまり来ないはず、②木和田尾のようなマイナーなルートを歩いている可能性が高いと(驚くほど正確に)推定、北限を霊仙山、南限を仙ヶ岳として時間の許す限り、休日は山歩きをしていたという。
その理由は、どうしてもわたしに会いたかったから――。
* * *
聞き終わったあと、どうしても気になっていた点を聞かずにはいられなかった。
「1年くらい前に木和田尾の登山口集合で呼び出したのはなんだったんです」
彼女は眼を瞬いた。「なんのこと?」
「去年の3月くらいにお礼がしたいからって、佐伯さんから連絡もらったけど。ほら、例のいたずら」
「そんな連絡してないよ。そもそも連絡できるくらいならこんなことやってないし」
確かにその通りであった。彼女は休学して自宅に引きこもっていた際、連絡先をすべて消したと言っていた。むろんわた
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- 私も続き楽しみにしています。匿名
- 続きを楽しみにいております。cabbess