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長編

お礼をしたいので 3

しもやん 3日前
怖い 261
怖くない 47
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く続くアップダウンなど、縦走終盤で余力の残っていない身体にとどめを刺すような登山道であった。  命からがら雲母峰に到着したときは、900メートルもないような低山であるにも関わらず妙な達成感を得られたものだ。  雲母峰は山岳名の美しさとは裏腹に、樹木の密生する眺望の効かない地味なピークである。主稜線から外れているため人通りも皆無なはずなのだが、この日は先着者がいた。  サファリハットにNORTH FACEのTシャツ、下は黄土色のハーフパンツ、アンダーは黒のタイツという装いで、ザックを下ろして休憩中といったところか。スリムな体型をした若い女性である。  わたしもザックを下ろし、水筒に入った沢の水をあおり、条件反射的に「こんにちは」と声をかけた。〈登山者を見かけたら挨拶する〉。一種のオペラント条件づけのようなものである。  返事は返ってこなかった。こちらの善意を無視する陰気な登山者はごくたまにいるので、特段気にすることなく手ごろな岩に腰かける。雲母峰山頂はそよとも風が吹かず、羽虫の飛び交う耳障りな音だけがあたりに響いていた。  紙の地図とスマートフォンで残りの行程を確認していると、貫くような鋭い視線を感じた。この場にいるのはわたし以外、挨拶を無視した女性だけなのだから、出どころはひとつしかない。横目でちらりと視線を移す。彼女は眉間に皺を寄せてわたしを睨みつけていた。いったいわたしがなにをしたのだと思う間もなく、両者ともに「あっ」と感嘆の声を上げていた。 「桐谷さんですか?」若い女性が詰め寄ってきた。「桐谷さんですよね?」  彼女はほかでもない、数年前に自殺を思いとどまらせた女子大生であった。いくぶん顔立ちは大人びていたものの、暖色系のアイシャドウという特徴的なメイクは変わっていなかった。  思わず後ずさった。彼女はとっくに死んだものと思っていたのだ。セ氏30度に近い季節外れの炎天下だというのに、震えと冷や汗が止まらない。それでもすぐに落ち着きを取り戻した。わたしは無神論者である。死人が生き返ったり幽霊などという証明しようのない代物が存在しないことは先刻承知だ。目の前の女性は生身の生きた人間だとすぐに結論を出した。 「誰だと思ったら佐伯さんか。その後どうしてたんです」 「連絡もしないですいません」  もと女子大生の語った内容は次の通りであった。      *     *     *  彼女はわたしに助けられ

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  • 私も続き楽しみにしています。
    匿名
  • 続きを楽しみにいております。
    cabbess
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