
長編
お礼をしたいので 3
しもやん 3日前
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いままで何度も命にかかわるような苦境に陥ってきたが、救助を要請しようと思ったことなど一度もない。わたしが仮に山で遭難して行方不明になったとしても、行き先を誰も知らなければ捜索もされない。救助隊に迷惑はかからず、わたしの遺体はひっそりと山の養分となって自然に還るだろう。
今回も直前まで登山ルートは決まっておらず、最終的な下山ルートが決まったのは2日めの鎌ヶ岳においてであった。わたしの心を遠隔的に読まない限り、雲母峰で待ち伏せして計画的にペテンを仕掛けるのは不可能である。そうなると彼女はただ単にわたしを担いで楽しむためだけのことに、連日鈴鹿山脈を彷徨って偶然の邂逅を求めていたという結論になる。
さすがにそんな人間はいまい。素直に佐伯さんの語ってくれた過去を信じるほかはない。
* * *
お礼の話はトントン拍子で進み、わたしは再び――みたびなのかもしれないが――彼女と会うことになった。
次会うとき、それは果たして佐伯さん本人なのだろうか。
同姓同名のアカウントが並んでいるのを見るにつけ、わたしは不安に駆られるのである。
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- 私も続き楽しみにしています。匿名
- 続きを楽しみにいております。cabbess