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長編

お礼をしたいので 3

しもやん 3日前
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怖くない 47
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しのそれも例外ではなかったはずだ。もし残っているのなら、鈴鹿山脈行脚をやらかして偶然の出会いに期待する、などという面倒な真似をするはずがない。  わたしはめまいを起こしそうになっていた。「ぼくの連絡先を消す前、誰かに教えたりは?」  佐伯さんは首を横に振った。「してないですよ」  なぜそんな質問をするのか不思議そうにしている彼女を前に、必死に時系列を整理する。佐伯さんを助けたのが4年前。お礼をしたいと呼び出されたのが1年と少し前。彼女が引きこもっていたのは約1年ほどで、助けられてからすぐ始まったと仮定すれば3年前には復学している計算になる。連絡先を消したのは引きこもり期間のはずだから、どれだけ多めに見積もっても3~4年前以内にすべての連絡先が抹消されているはずだ。 「もう一度確認します。去年の3月、ぼくに会いたいと連絡してないんだね?」  彼女はきっぱりと否定した。  わたしを木和田尾に呼び出したのはいったい誰なのだろう。      *     *     *  わたしたちは改めて連絡先を交換した。予想していた通り、SNSのアカウントは以前から登録されているものとはまったく異なっていた。ただ名前は一致しており、同姓同名のアカウントが縦に並ぶこととなった。  雲母峰から下山し、近鉄湯の山温泉駅から四日市駅へ移動している際、早速佐伯さんから連絡があった。今日出会えたのは奇跡だし、今度改めてお礼を言いたいからぜひ会ってほしい、という内容だった。  この奇妙な現象に合理的な説明をつけることは当然、できる。彼女はわたしの連絡先を消しておらず、前回(理由は不明だけれども)いたずらを仕掛けた。今回はあたかも前回のペテンなどなかったかのようにふるまい、わたしをさらに混乱させて楽しんでいる――。  こう解釈すれば一応筋は通る。筋は通るが道理が通らない。佐伯さんが嘘を言っているようにはどうしても思えなかったし、わたしのような壮年男性をペテンに引っかけて楽しむよりも、もっと有意義なことはこの世にいくらでもある。  どのみち今回の邂逅は偶然だったはずだ。わたしは登山届を出さないタイプの登山者である。行き先も誰にも告げていかない。それは自己責任を徹底しているからだ。みずからの意思で山に入るからには、救助など始めから期待すべきではない。不慮の事故だろうがなんだろうが、自力で解決できなければ座して死を待つ。それが当然ではないか?

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  • 私も続き楽しみにしています。
    匿名
  • 続きを楽しみにいております。
    cabbess
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