
冬のある日、私は高層ビルの一室に住む新たな住人、田中さんと仲良くなった。田中さんは明るくて話しやすい方で、子供同士も近い年齢だったため、すぐに友情が芽生えた。
しかし、ある時から彼女の周りに異様な臭いを感じるようになった。初めは気のせいかと思ったが、彼女が近くにいる時だけ、ほんの一瞬、獣のような生臭さが漂うのだ。田中さん自身はいつも清潔な印象で、普段の彼女からは全く匂わないのに、ふとした瞬間にだけ感じるその匂いに、何か不気味なものを感じていた。
それからというもの、ビルの周辺で不穏な出来事が相次ぐようになった。隣のビルからの転落事故、一階のカフェでの争い、そして何よりも、ビルの近くに住む住人が、何もないところで突然叫びながら消えてしまったとの噂が広がった。
田中さんが引っ越すことになった後、これらの事件はぴたりと収まった。私ともう一人の友人、佐藤さんと話していると、彼女も田中さんがいなくなったことに安堵していると言った。理由を尋ねると、彼女は田中さんが動くたびに、薄く黒い影が一瞬遅れて動くのを見たことがあると告白した。
それを聞いて、私も彼女が言うことを思い出した。楽しい時間を過ごした後の異常な疲労感や、田中さんの周りに漂う不気味な臭い。もしかしたら、彼女には何かが憑いていて、それが周囲の運命を引き寄せていたのかもしれない。
このビルでは、他にも多くの住人がいて、私たちの知らない秘密を抱えているのかもしれない。田中さんの存在が、何か不幸な出来事を引き起こしていたのだろうか。彼女の新生活が心配だが、今はただ静かな日常が戻ってきたことに感謝するしかない。何が起こるかわからないこの街で、私たちは今後も注意を怠ってはいけないと心に誓った。
私たちが何気なく過ごす日常の裏には、見えない恐怖が潜んでいるのだ。好きだった田中さんがいなくなって、少しだけホッとしたのは、そうした影の存在を感じたからなのかもしれない。
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