
長編
前世の話し?
匿名 2021年7月16日
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10年以上前のことで、親しかった友人に起きた話です。
私も現場に立ち会いました。
その頃、その友人は繰り返し見る悪夢に悩んでいました。
夢の内容は、本人もワケが分からないのだけど御しがたい激烈な怒りと殺意があって、目の前の若い夫婦を滅多刺しにして殺害し、その後、とても焦りながら自宅の庭を一生懸命掘ってその遺体を並べて埋めるというものだったそうです。
あまりにも同じような夢を繰り返し見るので、夢を見ると言い始めてから一ヶ月経たないうちに友人は半ばノイローゼのようになっていました。
そんなある日、友人が突然「埋めた場所を思い出した」と言いだしたのです。顔はゲッソリとして濃いクマができていて、とても不気味な顔をしていたのを覚えています。
友人一人で行かせるとどうなるか心配でしたので、私の車で二人で向かうことにしました。
車で三時間ほどでとりあえず友人が言った町に到着しました。場所の詳細は伏せます。
そこから友人はさらに不気味になったというか、青ざめた顔で血走った目がギョロっとした感じになり脂汗をダラダラと流し、鬼気迫るものがありました。横で運転していた私は、何とも言えない恐怖を覚えました。
私が「大丈夫や?」と訊ねると、友人は「大丈夫…」とだけ返事をしました。
大通りをしばらく進むと、友人が「そこから右に曲がって」と言い、細かく案内を始めました。
やがてその「現場」に着いたのですが、そこは古い住宅街の普通の道路でした。
その場所はちょうど水道管の工事が行われていました。
路肩に車を停めて現場に近づくと、友人は露出した配水管を見て「ここに二人埋めたんよ!」と騒ぐのです。
工事現場の方々は皆、怪訝な顔つきで友人を見ていました。私も、さすがにこれは不味いと思って友人を車に押し込め、待つように言いました。
私が現場の方に謝罪していたところ、責任者?のような方が来て「今見えているのは昭和初期に敷設された配水管です。取り外す時に下の方も掘ることになるので、工事の邪魔にならないようにしてもらえるなら、近くで見てもらってても構いませんよ。お友達も少しは気が済むでしょう」と説明してくれました。
私はその方に謝意を伝え、友人に説明し、待つことにしました。友人はその間も落ち着かない様子でした。
そらからしばらくして、現場の方が騒がしくなりました。先ほどの責任者?の方が血相を変えて走ってきて、「さっきの配管の下に骨が見えています、あなた達は何か知ってるのですか!?」と聞いてきました。
私はワケが分からないので、ただただ驚くだけでしたが、友人は青ざめた顔で「俺が埋めたやつと思う」と言いました。
私は驚きと恐怖のあまり、友人に対して「埋めたって、いつよ?そもそも誰を埋めたと?」と捲し立てました。が、友人は「それは分からん」としか言いません。
とりあえず、業者の方が警察を呼び、パトカーや刑事課の人が大挙してやってきて現場検証などを始めました。友人が変なことを言っていたため、私たちは警察署に任意同行されました。
警察署に着くと私たちは別々の部屋に案内され、事情聴取されました。私は本当にワケが分からないので、友人がおかしくなり始めたころのことからそれまでのことをただそのまま説明しました。刑事さんはポカーンとして、「や、そんなオカルトみたいなこと言われてもねぇ…」と困惑し、私も説明のしようがないため、二人で気まずい雰囲気になっていました。
帰る前に友人を担当した刑事さんから聞いた話では、友人は「俺が殺して埋めたと思うけど、他には何も分からない」と繰り返すばかりで、刑事さんも困っていたそうです。
2時間か3時間ほど経ったころ、帰って良いことになりました。係長という刑事さんによれば、「現時点で今回発見された二体のご遺体とあなた方は関係がないと認められますので、帰って頂いて大丈夫です。必要があれば、後日お呼びするかもしれませんが、多分しないでしょう。お話しできる範囲で話しますが、現場の配管は確かに昭和初期のもので、ご遺体はその下に埋まっていましたから、亡くなられたのはその前と言うことで間違いないでしょう。あなた方がお産まれになる遥かに前の話です。道路の舗装も昭和の前半の話で、あなた方が生まれる前のことです。白骨状態な上に、一見して古いご遺体なので、解剖しても死因の特定は難しいと思います。いずれにしてもあなた方は無関係です。ご友人のことは不思議なことですが、偶然と言うしかないでしょう」とのことでした。
警察署を後にし、友人と帰路に着きました。
友人はまだ混乱している様子でしたので、とりあえず実家に帰して親御さんに事情を説明しました。不思議なことではあるけれど、所詮は偶然でしかなく、本人は夢と現実がごっちゃになって混乱しているようだと。しばらくすると、驚く親御さんを尻目に友人は疲れからか倒れるようにして眠ってしまいました。
あの日から一週間ほど経つと、友人も落ち着いてはきたのですが、「お袋に呼んでもらった霊媒師によれば、前世のことを夢に見たらしい」と言い出し、その後は家族ともども新興宗教にのめり込んでしまいました。「前世の悪行を清算するため」に修行やお布施をするように言われたそうです。ちなみに、件の悪夢は、遺体を見つけた日を境に見なくなったと言っていました。
宗教に関心がない私は、熱心な友人とだんだん疎遠になり、年賀状のやり取りをするくらいになってしまいましたが、元気にやっているようです。
宗教にかなりの財産を注ぎ込んだようですが、生活は何とかできてるようですし、本人の精神の平衡が保たれているのなら、それはそれでいいのかもしれませんね。
私は前世なんて信じていません。あったとして、どんなによくてもミジンコが関の山でしょう。だって、この世には見えないような微生物を含めればとんでもない数の生命があって、この広い宇宙、地球以外のどこかにも生命はあるでしょう。前世も人間だったなんて確率的にあり得ないです。
しかし、頭ではただの偶然と分かっていても、ここまでピンポイントに一致することがあれば不安になるのも仕方のないことだと思います。私が同じ立場であれば、友人と同じようになってしまうかもしれません…
あの日から現在に至るまで警察からの連絡はあっていません。係長の刑事さんが言っていたように、昔の死体と結論付けられたのでしょう。
後日談:
- 8/12 友人が亡くなっていました… 帰宅したところ友人のご両親から残暑見舞いが届いており、友人が亡くなったことが書いてありました。 いったいどうしたことかと友人宅に電話したところ、お父様が出てお話ししてくださいました。 話をまとめると、 7月頃から「もう一回殺される、殺したやつらがくる」などと言って酷く怯えるようになった。 入っている新興宗教の地区の幹部に偉い人を呼んでもらって祈祷をしたが効果がなく、心療内科に連れていったものの、暴れるわけではないし自殺言動もなく、本人が拒否したことから入院は叶わなかった。 そして、それから間もなく、朝から起きてこないので部屋を見に行ったところ、家族に対して先立つことの詫びと、「苦しんで殺されたくないから、自分でやります」というようなことを書いた遺書があって、本人はいなかった。 その日のうちに、近くの公園で首を吊って亡くなっているのが発見された。 コロナのこともあり、近親者のみで葬儀を行い、残暑見舞で報告した。 とのことでした。 話を投稿した前日のことです。 気休めですが、神社でお祓いしてきます。 偶然のはずですが。
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