
私が勤めている病院には、井上医師という少し変わった方がいる。
彼は年齢が40代半ばで、いつも穏やかな笑顔を浮かべているが、周囲からはどこか避けられ気味だった。 それは、井上医師が時折、不自然に間がずれてしまうからだ。
例えば、患者の呼びかけに対する返答が遅れたり、他の医療スタッフが話しているのに、突然別の話題を持ち出したりすることがあった。周囲のスタッフは、彼を疎ましく思うこともあったが、私は特に気にしなかった。
ある日の夜勤、休憩室で彼と一緒になった。外は氷点下の冷たい風が吹き荒れていた。私はタバコを吸いながら窓の外を見ていた。
「井上医師、夜勤お疲れ様です。」と声をかけると、5秒後に彼が返事をした。
「お疲れ様です。今日は静かですね。」
「そうですね、早くこの夜が終わってほしいです。」と会話を交わした後、私は休憩室を出ようとした。
その時、ふと振り返ると、井上医師は私がいないのに、何か一人で話していた。彼はまるで誰かと会話をしているかのようだった。それを見た瞬間、背筋が寒くなった。
次の日、全体朝礼の日だった。私は夜勤明けでボーッとしていたが、井上医師の姿が目に入った。彼は他の医師たちが前を向いているのに、横を向いて何かを見つめていた。体は正面を向いているが、顔だけが斜めを向いているのだ。
その瞬間、あまりにも異様な光景に心臓が凍りついた。井上医師が見ている世界と、私たちが見ている世界が明らかにずれていることを感じた。周囲のスタッフは彼を避けるように距離を取っている。私たちが感じる音や視覚が、井上医師には違った形で届いているのかもしれない。
もう一度、彼に何かを渡す機会があった。その日、休憩室で「井上医師、これを渡しておいてほしいものがあります。」と声をかけると、彼はいつものように優しい笑顔を浮かべた。
「ありがとう、持っていきますね。」と答えた後、急に「仕事が終わったら、渡しますよ。」と続けた。私はその言葉に戸惑ったが、会話はスムーズに続いた。
数日後、私は勇気を振り絞って聞いてみた。「井上医師、あなたは周りの人と少しずれていますよね?それに気づいていますか?」
彼は静かに頷き、目に不思議な光を宿して答えた。「はい、わざとそうしています。私の見ている世界は、一般の人たちとは違うのです。」
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