
中編
嘘つき。
SHO 2017年3月18日
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俺は普段の通勤で、都内の某私鉄に乗って会社に通っている。
これは、ある日の会社帰りに起きた出来事。
俺の通っている会社の最寄り駅は各停しか止まらない。
だから会社から帰るときは、いつも数十分くらい電車を待たされる。
特急とか急行も止まらないからな。
その日もいつものように、スマホを操作しながら電車を待っていた。
そんな時、ふと向い側のホームにいる女性に目がいった。
いや、別にやましい事とか、意識して見たわけじゃない。
なんとなくって感じ。
その女性も特別目立ったわけではない。
よくオカルトな話にありがちな『白いワンピースを着た〜…』って服装でもなく、普通のカジュアルな服。
ただ、その女性を見ていたとき、急に激しい頭痛が襲ってきた。それとめまいも。
ぐわんって感じで。
ただ、その時は仕事で疲れたからな…ぐらいにしか思わなかった。帰ったら早く寝ようってね。
頭痛がしてからしばらくして、向い側のホームからアナウンスが流れた。
『まもなく、〇番線を電車が通過します。危ないですから〜(略)』
って感じのやつ。しばらくして、駅員も通過列車のアナウンスをした。
まぁ、いつもの見慣れた光景だ。しかし、この日は違った。
電車が駅に進入してきた。スピードもかなりある。
すると、俺が見ていた女性がスマホから顔をあげ、まるで思い出したかのようにそそくさと線路に飛び降りる。
電車はそのまま止まらずに轢いていった。鳴り響く電車の警笛。周りの人の悲鳴。
ほんの数十秒の出来事だったと思う。俺は呆気にとられて言葉もでない。
人身事故というものを、初めて見た瞬間だった。
あの女性はなにを考えて線路に飛び降りたのだろう。自殺ではないと思う。そんな様子ではなかった。
電車と線路の間には肉片と女性が着ていた服の残骸。
駅はけたたましい警報音と駅員の慌ただしいアナウンス。
それから十数分もすると、警察と救急隊が到着し、現場検証が行われはじめた。
ただ、俺はその間恐ろしいものをみた。
いや、見えたと言うべきかも。
まぁ、その女性を轢いた電車がその駅に止まっていたわけだけど、当然その電車には客がいるよな。
で、その車内に、轢かれたはずの女性がいたんだ。
その姿は、俺がホームで見た時の格好と同じ。しかも、スマホを普通に操作している。
普通に一般の人に混じってるんだよ。
俺はもう訳が分からなくなった。
信じられなくなり、もう一度見直す。
増えてた。その女性が。
今度は普通に椅子に座ってる。今度は本みたいのを読んでる。服装は変わってない。
それから…少しずつ増えていった。
車両にいる一般客がどんどん轢かれた女性に変わっていく。
まるで、普段電車を使っていたその女性の日常を見ているみたいだった。
誰かと喋っている女性。椅子に座りながら寝ている女性。笑っている女性…
狂ってるように思われるかもしれないが、そんな感じので、走馬灯のように見えた。
その時、電車の警笛がなった。
俺はビックリして目を離す。また電車に目を戻すと、普通の一般客に戻っていた。どこにも異常はない。
俺はもう、早々にここから立ち去りたかったが、電車が遅延していて来ない。
どうやって帰ろうかスマホで調べていた時、警察に声をかけられる。
まぁ、目撃者として説明を求められたわけ。
俺はあの一部始終を話すべきか迷ったが…止めておいた。
「警笛がなって、気付いたら誰かが轢かれていた。」
そんな感じで。もちろんあの不可思議な事象も話さなかった…いや、話せないだろ。頭おかしいとしかどうせ思われない。
正直、こんな面倒事からはやく抜け出したかった。最低かもしれないが。
警察は一通り形式的な質問をした後、俺を解放してくれた。
良かった…これで帰れる。そう思った時
「嘘つき。」
俺の耳元でそんな声が聞こえた。聞き覚えもなかった。
「うぇっ!?」
俺は大きな声で情けない声をだす。周りがみんな俺を見る。遅延の影響でかなり人もいた。
まだ近くで事情聴取をしていたさっきの警察が
「どうしましたー?」
って聞いてくる。
「いえ…大丈夫です。」
と、俺はお茶を濁す。
それっきり、声は聞こえなかった。
後にも先にも、俺がこれ程恐ろしい思いをした事なはい。
あんな耳元で、声が聞こえるはずがなかった。
それにあの走馬灯…なんだったのか、未だに気になる。
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