
長編
視線を感じる
えい 2020年12月14日
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数年前、あるご家族が、都会から田舎暮らしをしてみたいと、某県の田舎町に引っ越して来たそうです。
その町には、都会の様な綺麗なマンションやアパート等の物件は少なく、田畑が広がる一画に密集して建つ古民家を借りたのだそうです。
外観だけ見れば、築年数はかなり古そうだったが内装は、畳は新しく、昔は土間であったであろう場所は、物が置けるスペースが設けられ、キッチンやお風呂場、トイレ等は全て家の中に作り替えられていたらしいです。
一戸建てで、で6部屋あった内、西側の2部屋は、子供達の部屋になった。
引っ越しのトラックが到着し、荷物が降ろされ、子供達は、自分達の荷物を部屋に運んでいた。
近隣の方も手伝ってくれ、夕方前には、荷物を片付けられた。
その後、家族は、改めてご近所に挨拶周りをして、帰宅する頃には、日が沈み始めていた。
引っ越し祝いだといい、家族は少し離れた町に食事をしに出掛けた。
引っ越した町にも小さいスーパーや雑貨店などがあるが、食事が出来る様な場所は、少し離れた町に出なければ無い様だった。
帰宅して、居間で談笑をしていたが、長旅の疲れからか、子供達は「寝る。」と言って各々の部屋に行った。
夫婦はそれから、少し荷物を整理してから、休んだ。
初めての家。
虫の声が聞こえる以外、物音は聞こえない。
時折、猫が鳴き声を上げながら通り過ぎて行ったりしたが、以前住んでいた場所と違い車の通る音も人が騒ぐ声も聞こえない静かな夜だった。
中学2年生の娘 詩音(仮)は、スマホで前の友達とLINEで話をしていた。
小学6年生の娘 莉音(仮)は、布団に入って暫くして眠りに就いていた。
夫婦は、布団に入ってからも暫く色々話をしていたが、そのうち眠りに就いていた。
詩音もいつの間にかに眠っていた。
翌日、詩音が転校する中学校までは、5㎞くらいあり、自転車通学になると聞いていたので、家族は隣町に買い物に出掛けた。
詩音が気に入った自転車を購入していたら、莉音も自転車が欲しいと言い出したので、莉音の自転車も買うことになった。
後日、配達して貰える手続きをして、日用品や食料の買い物を済ませ、帰宅した。
詩音にお風呂掃除を頼み、母親は、キッチンに沢山買った食料を冷蔵庫や棚に直していた。
父親と莉音は、二人で家の横に花壇と家庭菜園の場所を決めに行った。
お風呂は、昔の五右衛門風呂を改装して、普通の蛇口からお湯が出る様に作り替えられていた為、浴槽を洗った後に、お湯と水を出して詩音は、居間に行きテレビを見ていた。
暫くすると庭から父親と莉音の声がして、詩音はテレビを消して、庭に出た。
近所の人に借りた、鍬で不器用な手付きで、笑いながら、土を耕していた…つもりの様だったが、詩音には、穴を掘っている様にしか見えなかったらしい。
丁度その時、家の前を通り掛かった農家の方が、何をしてるのか?と聞いてきた。
父親は、「花壇と家庭菜園がしたくて、耕そうとするんですが、中々…。」 と笑顔で話すと、農家の方が敷地に入って来て、笑いながら、それじゃダメだと、こうして使うんだと教えてくれた。
庭から楽しげな声が聞こえてきて、母親が庭の方へ顔を覗かせると、近所の人と父親と娘達が、笑いながら地を耕していた。
お茶を淹れて、お盆に乗せて縁側から声を掛けた。暫く談笑をして、近所の藤田(仮)さんは、帰えって行った。
莉音は「色んな事、教えてくれたんだよ。」とはしゃいでいた。
それから、家族総出で、笑いながらなんとか花壇らしきスペースと家庭菜園用のスペースを作った。
昼過ぎに、自転車が届き二人の娘達は、早速、近所を探索しに出掛けて行った。
30分くらいして娘達が帰ってきて、少し遅い昼食を軽く済ませた。
明後日から、詩音と莉音は、新しい学校に転校する事になっていた。
使う教科書等は、以前使っていた教科書で大丈夫だと言われていた。
新しく揃えるとなる物と言えば、制服ぐらいな物だった。
そうして、新しい生活がスタートした。
1週間もすると娘達には、友達も出来て一緒に遊びに行くまでになっていた。
以前は共働きだったが、引っ越してから、1年は母親は専業主婦として、家に居る事になり、父親は、以前勤めていた会社の支社が隣町にあり、そこへ転勤した。
そうして、新しい生活にも慣れて来た数ヶ月後、最初は、莉音が言い始めた。
莉音「お母さんが買い物行ってる時さぁ莉音が一人で居たら、なんか変な感じがするんだよねぇ。」
母親「変な感じって?」
莉音「ん~とねぇ…なんか誰かに見られてるみたいな感じかなぁ?」
母親「自分の部屋で?」
莉音「ううん、何処でも。でも誰も居ないのに変でしょ?」
母親「気のせいとかじゃないの?ここ静かな町だし。昼間はみんな農作業や会社に行ったり、学校行ったりしてて、人の声も疎らだし…。」
莉音「ん~…そうかなぁ?お母さんが家で一人で居る時には無いの?」
母親「別に無いけど…?」
莉音「じゃあ気のせいなのかなぁ?」
母親「きっと、そうよ。あんまり気にしちゃだめよ?」
莉音「う…んわかった。」
その時母親は、思春期かな?ぐらいにしか思っていなかった。
そうして…2~3日ぐらい過ぎたある日。
母親が、夕飯の魚の下拵えをしていた時だった。
良く分からないけど、誰かに覗かれている様な、見られている様な感覚があり、後ろを振り返ってみたが、当然、娘達は学校で、父親もまだ帰宅する時間ではなかった為、気のせいかと思っていた。
そして、まな板へ視線を戻すと、また視線を感じる感覚がわき上がって来た。
しかし、気のせいと思い直し魚の下拵えを続けた。
そして、つい2~3日前にも莉音が誰かに見られてるみたいな感じがしたと言っていた事を不意に思い出し少し怖くなり、さっと下拵えを終えて、庭に植えた花に水をやりに外へ出た。
外に出ると、見られているという感覚は、全くしなかった。
恐る恐る家の中に入ってみたが、視線は感じられず、その後は、洗濯物をしまったり、夕飯の支度をしたりと家事をするうち、視線を感じていた事はすっかり忘れてしまっていた。
皆で夕飯を済ませ、テレビを見ていると、詩音がやたらと後ろを振り返る事に気付いた母親が聞いた。
母親「詩音?どうしたの?」
詩音「あ…うん…なんでも無いの気にしないで。」
と、答えた後も数回部屋を見渡す仕草をしていた。
そんな事があってから、2年が過ぎた頃、詩音の様子がすっかり変わってしまった。
詩音が制服が可愛いからと受験した高校に受かり、入学当時は、喜んで毎日通っていた学校も今では、保々行かなくなってしまった。
田舎町という事で、詩音が不登校になった事は、瞬く間に噂として広まり、益々、詩音は外に出る機会を失っていた。
其れ処か、部屋のカーテンはいつも閉めっぱなし、手鏡や好きだったアニメのフィギュアが入っていたケースにまで、新聞紙を貼り付けてしまっていた。
一日中部屋にこもり、食事も部屋で済ます事が多くなって、家族で食卓を囲む事は無くなってしまった。
たまにトイレに出てくるが、しきりに周りを気にしながら、怯えた顔をして、ビクビクしながら用を済ませ、再び辺りの様子を伺いながらキョロキョロと辺りに目を向けながら、部屋に入って行く。
最初は、高校で何かあったのかと、両親は心配して色々、聞き出そうとしていたが、怯えているだけで何も話さなかったらしい。
ただ、それは家に居る時だけで、母親と町へ買い物しに出掛ければ、以前の様な明るい顔になると言っていた。
そんな時必ず言う言葉があった。
詩音「ここなら感じない。」
そんな生活を繰り返していたある日の夜中。
突然、莉音が大きな叫び声を上げた。
寝ていた両親は、莉音の叫び声で目を覚まし、急いで莉音の部屋に入った。
莉音は、上半身を起こし座った状態で、部屋のあちこちを見渡していた。
母親が駆け寄り莉音の肩に触れて名前を呼ぼうとした、莉音の寝間着はグッショリと濡れていた。驚いて莉音の顔を見ると、汗が流れていた。
父親の声で、母親は、莉音の肩を掴み名前を呼んだ。しかし…莉音は怯えた目で部屋の中を見渡すばかりだった。
母親が莉音の額に手をあてると、熱があった。
それもかなりの高熱。
母親は、タオルでサッと体を拭き莉音に着替えをさせると、父親に車を出す様に言って、バタバタと病院に行く準備をしていると、今度は、詩音の部屋から、悲鳴が聞こえた。
父親が莉音を車に乗せようと家に入って来た時だった。詩音の部屋から物凄い悲鳴が聞こえた。
父親は、居間には行かず、詩音の部屋に行った。
母親も、詩音の部屋に走り込んで来た。
真っ暗な部屋の電気を父親が壁にあったスイッチを押し点けた。
部屋の真ん中に立ち尽くし、まるで何かが居るかの様に目で追う様な仕草をしていた。
父親が詩音に歩み寄り、肩に軽く触れると、まるで糸の切れた操り人形の様に、その場で気を失い慌てて父親が詩音を抱き止めた。
何が起こっているのか全く分からない。
両親は、詩音と莉音を連れ病院へと急いだ。
その車内で、二人の娘は、しきりに「見ないで、見ないで。」と言い続けていた。
そのうわ言を聞いていた母親は、ある事を思い出した。病院へと車を走らせる父親に以前あった事を話した。
すると、「実は俺もそんな事があったんだ。」と父親が言って、「あの家、何かあるのかな?明日、不動産屋に聞いてみようか?」と言ったので、母親も「そうね。」と短く返事を返した。
幸い莉音は、病院で処方された薬を2日くらい飲み熱は、すっかり平熱に下がった。
一方で、詩音は、家から出ると以前と変わらない調子になるものの、家に入ると辺りをキョロキョロと見渡しては怯える毎日を送っていた。
父親が不動産屋に電話をして聞いたが、特に貸し出した家で死んだ人とかは居ないとの事で、持ち主の方は、遠縁の親戚が営む老人介護センターにいて、今も健在であるという事だった。
ただ、家族が引っ越して来る5年くらい前にも中年の夫婦に貸していた時、そんな話を聞いた気がすると言っていた。が、特に調査とかは行っていないとの事だった。
父親も母親も幽霊や怪奇現象というものは、殆んど気のせいだろうと思っていた。
しかし、家族の中の誰かが一人で家に居る時、必ず誰かの視線を感じていたのは紛れもない事実。
かと言って、こんな話を誰に相談していいのか分からず、最初は、インターネットから見付けて、相談したらしい。
しかし、お祓いやお清めという話では、お金が掛かると言われ、相手が出した金額は、とても大金だった。流石に、今は用意出来ないと諦め、別の所へまた、相談した。
案外、すぐそういう人が、見付かると思っていた母親。
実際は中々見付からず
訊ねた所々で、お祓いやお清めには大金が必要というのが分かっただけで、大金が掛かると何人にも言われ続けた結果、胡散臭いと思ってしまう様になっていった。
莉音は、いつも笑顔で学校に行っていた。
詩音は、自分の部屋に籠り続けていた。
母親は、家でパソコンに向かう日々が続き、父親は、仕事の合間に、そういう場所を知らないか?と、心霊番組が好きだと言っていた同僚達に聞いて廻った。
母親が一人パソコンを操作していると、後ろから視線を感じて手を止めた。
しかし、そんな気がするだけ、振り返って見ても何も居ないんだからと、また手を動かし始めると、後ろからの視線がさっきより、自分に近付いた様な気がした。
それでもパソコンに向かっていると、視線が確実に近付いている様だと気付いた。
気付いてからは、振り返る事が怖くなり、なんとか平静を装うと、大きく腕を上に伸ばした後、「お茶にするかなぁ?」と少し大きめの声を上げ立ち上がって勢い良く振り返った。
そこには、誰も何も居なかった。
父親が帰宅して、「同僚に話を聞いた中で、どの同僚からも名前が出ていた、お寺なんだが…。相談だけでもしてみるか?」と。
父親からその話を聞いた母親は、「何度も名前が出てくる所なら大丈夫なんじゃないの?こっちは全然ダメだったし…。」
と、言ってその日、夕飯を住ませた後に父親はお寺に電話を掛けた。
その横で心配そうな顔をしながら様子を伺っていた。
暫く話をしていた父親はスマホをテーブルに置いた。
母親は「どうだったの?」と心配そうに聞いた。
父親「向こうの人から、折り返し電話をくれるらしいよ。」と言ってお茶をひと口飲んだ。
家の固定電話が鳴った。
電話を取ると、お世話になっているお寺からだった。
一通り話を聞いた後で、教えて貰った番号へスマホから折り返した。
紫雲「夜分にすみません。○○寺へお電話された方で間違い有りませんか?」
そう問い掛けると、相手はそうだと言い、お寺に話た内容とは別の話をして貰いました。
紫雲「そうですか…気になるのは、誰かの視線を感じるというもので、それはご家族全員という事ですね?それで、一番最初に気付かれた、えーと、詩音さんが引きこもりの様になってしまったという事であっていますか?」
大体の話を聞いてから、一度家を見せて欲しいというのと、出来れば、ご家族が全員揃っている時がいい旨を伝え電話を切った。
朝、もう一度電話が来て、次の日曜日だったら、家族全員居ますと言われたので、ではその日に向かいますと告げた。
日曜日。
場所は、聞いていたのですが、少し遠出になる為、朝早く助手3人と共に依頼主の家へ向かいました。
国道から高速に乗り、一時間程車を走らせた先にあるパーキングエリアに寄り、小用を済ませ飲み物を買い、再び高速を走り二時間程して、高速を下りました。
国道から市道へ車はどんどん山の方に向かい田畑の広がる農道へと入りました。
農道へ入り20分くらい走らせると、目印として教えて貰った看板があり、そこから10分程したら、依頼主のお宅へ辿り着きました。
車を庭に止め、呼び鈴を押すと、母親が出て来て、どうぞと家の中に招かれました。
玄関から一歩足を差し出した時、ピリッとした静電気の様な軽い痛みが走りました。
用意されたスリッパを履き、居間へ行き驚きました。
助手達も軽く「えっ?」と囁きが声になり漏れ出ていました。
私は、助手から1枚、札を貰い、それをテーブルの隅にパンッと音を立てて置きました。
その様子を見ていたご家族が全員、あれ?って顔をしていたので、私がこう尋ねました。
紫雲「今、視線を感じていた妙な気配が消えましたよね?」
そう言うと、ご家族全員が呆気に取られた顔で頷きました。
それから、各部屋を視て回り、再び居間に戻って来ると、強張った緊張した顔で、詩音さんが此方を見ていました。
紫雲「詩音さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。いつもの様にリラックスしていて下さい。」
そう声を掛けると、少し戸惑った顔で母親の方に目を向けると、母親は軽く頷き詩音さんの背中を軽く叩いてから、詩音さんの緊張は少しだけ解れた様子でした。
紫雲「一通り、部屋を見せて頂きましたが、何処に居ても、誰かの視線を感じますね。この家は、昔ながらのものでしょうから、何か住み着いて居てもおかしくは無いのですが…そういった類いのものは居ませんね。この家は、借家とお聞きしましたが、不動産屋に連絡着きますか?」
そういうと、担当の人の連絡先をこの間、教えて貰ったと言われたので、ご主人に連絡をお願いしました。
紫雲「此方に来て欲しいと伝えて下さい。」
そんなやり取りをしていると助手の一人がある襖を凝視しているのが目に入りました。
それは、居間の隣のその奥にあった部屋の襖でした。
カーテンや障子戸を開けていても、その奥の部屋は暗く襖は閉まった状態。
部屋を視て回った時には開けましたが、中は薄暗い程度で普通の部屋でした。
助手Aが、襖を凝視している事に気付いた母親も奥の方を見ていました。
紫雲「さて…。」そう声を出すと襖を凝視していた助手Aは此方に顔を向けました。
電話を終えた父親も戻り、話始めました。
紫雲「まず最初に思った事は、良くこの家に住んでいられたな…と。」
私達が居間に入った時の様子を思い出したのか、誰かが「あっ」と声を出しました。
紫雲「普通は、外から家の中を貫通し、また外に伸びているものなのですが…この家では、家の中だけにありました。」
それは何か?と父親が聞いて来たので。
紫雲「霊道という、亡くなった方々が通る道の事です。」
そう言うと、全員が各々の顔を合わした。
紫雲「何処に居ても、誰かの視線を感じる。と言われていましたよね?当然だと思いますよ。」
そう言うと、娘さん二人は「私達の部屋にもソレはあるのか?」と心配そうに聞いてきました。
紫雲「黙っていてもしょうがないから言うけど、有りますよ。」
そう言うと、莉音さんが先程、私がテーブルに置いた 御札を指差して言います。
莉音「その御札を張っていたら、さっきみたいに私達の部屋のものも消えるんじゃないですか?」
紫雲「これは、一時的なもので、ずっとは効かないの。原因になっているものを取り除いて、普通に暮らしていた方がいいんじゃない?それに…お部屋に友達呼べないでしょ?」
と…困った顔を向けると、「あっ…そうかぁ。」と力なく項垂れてしまいました。
そうして話をしていると、呼び鈴が鳴り母親が居間を出ていき、不動産屋の担当の方と居間に戻って来ました。
担当の方と顔を合わせ軽く会釈を交わした後、頼んで置いた書類(簡単な間取り図みたいな物です。と、内装前と内装後の写真等)を手渡して来たので、早速、拝見させて頂きました。
その写真に写っていた襖の絵が同じ物だったので、担当の方に聞くと当時の物で、障子戸も当時の物だったが障子紙は黄ばんでいたので、新しく張り直したと言った。
暫く写真と間取り図を見比べていた時、そう言えば…と呟いて、内装工事に入った会社の従業員が確か何か言ってた様だったと…別の書類を出してページを捲っていた。
担当者「ああ…あったこれだ。」
そう言われて手渡された紙を手に取り内容を目で追う。
担当者「私は、この家の担当をしているだけで、内装工事の時は、別の者が立ち会っていたらしいんですが…なんか、気持ち悪いなと思い書き留めていたらしいんです。」
紫雲「これ、取り除いてませんよね?」
担当者「ええ、多分…。なんか皆、気味悪がって触らなかったとかって…聞いてます。」
紫雲「この家の襖は、破れたりしたら、借り主が張替えですよね?それは別に私でも構いませんよね?」
担当者「ええ、それは構いませんが…あそこの物と何か関係があるのですか?」
紫雲「はい。」
短く答え、時計を見ると、10時を少し回っていた。襖を剥がすのは、簡単だけどただ剥がせばいい訳じゃないので、襖を剥がすのは助手に任せ、天井を見上げて、担当者に問い掛けた。
紫雲「天井裏に上がれる場所が有りますか?」
担当者「えっ⁉ 上がるんですか?」
紫雲「ええ。何か不都合な事でも有りますか?」
担当者「い…ぇ別に不都合な事はありませんが…ここに記されている物があるんですよ?行くんですか?」
少し声を震わせながら担当者が聞いてきました。
紫雲「大丈夫です。見慣れてますから。」
そう答えると、脱衣所から屋根裏へ上がれると教えてくれたので、脚立と懐中電灯を借り、脱衣所へ向かった。
一応、担当なので見届けるといい、私の後を追って小走りに着いて来ていた。
小さい脚立を立て一番上まで上がり少し広い正方形の板を上に押し横にずらした。
冷たい空気と少しの埃が舞う。
薄暗い空間に懐中電灯の明かりで照らす。
担当者が下から声を掛けた。
担当者「大丈夫ですか?上がれます?」
私は、一旦、頭を屋根裏から室内に戻し、頷いてから、ゴソゴソと大きな梁に掴まりながら、屋根裏へ上がった。
梁の上だけを歩き、中心を目指す、そして、ソレを見付けた。
視線を感じる…。四方から。
視線のする方向に明かりを向ける。何も無いように見えるが、多分…同じ物があるのだろうと思いながら、中心にあった紙を剥がした。
冷たい空気がまとわり着く。
梁の上を歩き、四方にあった紙を剥がして回り、入って来た場所へ移動した。
心配そうに下から見上げていた担当者が私と目が合うとホッとした顔をしていた。
滑る様に足から下へ降り、再び板を戻し、塞いでから、お風呂場へ行き、靴下を脱いで、埃を叩き落としシャワーで流してから、居間へ戻った。
襖を剥がしていた助手の元へ行き、どうだ?と声を掛けると引きつった顔を私に向けた。
絵がある表の1枚を剥がすと、2枚目に紫色の裏地がある、その紫色の2枚目も剥がすと、それは出て来た。
その紙を丁寧に剥がし終わる頃には、お昼を少し回っていた。
一通りの作業を済ますと、「お昼召し上がって下さい。」と母親が食事を出してくれました。
用意された物を断るのも悪いので、私達は、ご馳走になりました。
この後の話は、また次の機会にお話します。
長文すみません。
後日談:
- 話の流れでは、莉音が先に気付いた様に書きましたが、実は詩音の方が先に気付いていた様です。 誰にも言わなかったと言ってました。
この怖い話はどうでしたか?
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