
ある男性から聞いた話だ。
彼は日々の仕事に追われ、家庭を顧みる余裕すらなかった。休みの日も出張や接待に明け暮れ、会社の期待に応えてきた。努力の成果で、彼は部長の地位に上り詰めたのだが、それは彼の家族にとっては何の意味も持たなかった。妻とは距離ができ、息子とはほとんど会話がなかった。
彼は最近、心臓の不調を感じていた。過労が原因だと医者に言われ、食後に飲む薬が処方された。だが、家では気を抜いてしまい、飲み忘れることが多かった。そこで、妻に薬を準備しておくように頼んでいた。だが、最近はその声もあまり届かなくなっていた。
「薬、まだ?」
背後から水の入ったコップとカプセルが渡される。妻は申し訳なさそうに言った。
「ごめん、最近物忘れがひどくて」
そんな調子で流される日々。彼は妻のその言葉に苛立ちを覚えた。
ある日、会社の健康診断での内視鏡検査で異常が見つかった。医者から告げられた言葉は「緊急手術」だった。手術後、彼は病室で目覚め、重度の内出血と診断される。体の中に穴が空いて、血が漏れ出ていたのだ。全く自覚症状がなかった彼は、医者からタフネスを称賛されるが、焦りの中で、入院することが自分の仕事に影響を与えるのではないかと心配していた。
見舞いに来た妻には強がりを見せた。
「俺は大丈夫だ、まだまだやれる」
だが、妻の返事は冷たかった。
「鈍感ですね。」
その言葉は、彼の心に刺さった。何も気づかないまま、飲まされていた薬について、彼は疑問を抱くようになった。彼の口から出た言葉は、妻の不満の具現化のようだった。
「それ、何の薬?」
妻はただのビタミン剤だと答えるが、その口調には何かが隠されているように感じた。彼はその後、薬の成分が何であるかを考えずに飲んでいた自分に気がついた。
手術後、彼は早く退院できたが、飲む薬の量は増えていた。朝と夜に飲む粉薬、食後の錠剤、そして新たに増えた薬。だが、あのビタミン剤は二度と見なかった。彼は、家族との会話を増やし、少しずつ変わっていった。
最後に、あの薬が本当に何だったのか尋ねると、彼はこう答えた。
「分かりません、でももう知る必要はないと思います。」
その言葉は、彼の心の奥に潜む不安を映し出していた。何が真実なのか、彼にはもうわからなかった。
後日談:
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