
2学期の終業式を目前に控え、冷たい冬の雨が校舎を白く煙らせていた、12月上旬の放課後のことだ。
私は担任の先生に頼まれたプリントの束を回収するため、一人で旧校舎2階の奥にある、薄暗く冷え切った理科準備室のドアを開けた。
薬品の匂いが微かに残る室内は、暖房も届かず、しんと静まり返った陰鬱な空気に満ちていた。
棚の間を通り抜け、目的の書類棚へ手を伸ばそうとした、まさにその瞬間だった。
ボッ……ボボボッ!!!
誰もマッチを擦っていないにもかかわらず、棚の奥に一列に並んでいた古いガラス製のアルコールランプたちから、突如として一斉に「真っ青な炎」が立ち上がったのだ。
驚愕して思わず後退りした瞬間、その青い炎が激しく揺らめくのに連動して、室内の温度が上がるどころか、逆に凍えるような異常な冷気が部屋中に吹き荒れた。
次の瞬間、私の体内の熱がリアルタイムで急激に外へと奪われ始めた。
特に心臓の奥が、冷たい氷の刃で直接締め付けられるように急激に冷え切っていく。ドクン……ドクン……と、鼓膜の奥で響く自分の心臓の脈拍が、停止へと向かって急速に弱まり、指先から感覚がなくなっていく。
これまで数々の地獄を潜り抜けてきた経験から、脳裏に最悪のルールが弾け飛んだ。
パニックになってその青い炎を息で吹き消そうとしたり、部屋のドアを開けて廊下へ逃げ出しては絶対にダメだ。
もし怪異の炎から背を向けて動けば、その瞬間に心臓が完全に凍結して停止し、即死する。
体温をすべて奪われ、心肺停止に追い込まれる前にこの呪縛を解除する、唯一の脱出ルール。
それは、【自分のカバンに入っている『身の回りのノートやメモ帳』のページを一枚破り、その紙を青い炎に向けて投げ入れ、物理的に現実の火を灯しながら、『俺の火は消えない』と口に出して大声で命令する】ことだけだった。
怪異の冷たい炎に対し、こちらが用意した現実の可燃物(ノート)を消費して生身の熱を上書きし、世界の主導権を奪い返すしか生き残る道はなかった。
「俺の火は……消えないッ!!」
私は凍りつきかける胸の激痛に耐え、薄れていく意識を必死に繋ぎ止めてカバンに手を突っ込んだ。
中から手当たり次第にノートを引っ張り出し、震える指先でそのページを力任せに一枚破り取った。
そして、激しく揺らめく青い炎の芯に向けて、その紙切れを全力で投げ入れた!
メラッ!!!
投げ入れた紙が青い炎に触れた瞬間、そこから現実の眩しいオレンジ色の火花が爆発するように燃え広がった。
後日談:
- 私は冷や汗と激しい悪寒でガタガタと体を震わせながら、薄暗い理科準備室の床で自分のノートの燃え残りを凝視していた。 目の前のアルコールランプたちは、何事もなかったかのように芯も濡れていないただの理科の備品として静かに佇んでいるだけだった。 【12月の本格的な冬の寒さを利用し、実験器具を媒介にして生存者の『体温と命の熱』そのものを物理的に奪い去って心臓を止めようとする、極めて冷酷で容赦のない呪い】だった。 だけど、あれは絶対に冬の寒さによる急な血圧の低下や錯覚なんかじゃない。 あの学校の怪談は、冬休み前の静かな日常の影で、アルコールランプさえも最悪な凶器に変えて、私を抹殺するための怪談を仕掛けた。 次は1月だ
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