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言わされた言葉

町役場のロビーに、見慣れない装置が置かれた。
黒い筐体に、小さな画面がひとつ。
説明書きには、こうあった。
「未来の一言を表示します。
利用は一人につき一度限りです」
明日の自分が、必ず口にする言葉が映るらしい。
占いにも似た軽さで、人は集まり、笑いながら列を作った。
「今日は忙しいな」
「雨が降りそうだ」
表示される文句はどれも平凡で、肩透かしだった。
拍子抜けした空気のまま、順番が回ってきた。
画面に浮かんだのは、短い一文。
――「まあ、仕方ないか」
理由はわからない。
慰めにも、諦めにも見える曖昧さが、胸の奥に残った。
その夜、なぜか寝つきが悪かった。
翌日。
特別な出来事は起きなかった。
仕事は淡々と進み、天気も穏やかで、何事もなく一日が終わろうとしていた。
夕方、帰り道で町役場の前を通りかかると、装置の横に張り紙が増えていた。
「※この装置は未来を予測するものではありません
表示された言葉に、人は無意識に沿った行動を取ります」
読んだ瞬間、喉の奥がひくりと動いた。
そのときだった。
目の前で誰かが書類を落とし、軽く舌打ちする音がした。
反射的に、口が開く。
「まあ、仕方ないか」
声に出した途端、背筋が冷えた。
誰に向けた言葉でもないのに、言わされた感覚だけが残る。
装置を見ると、画面はもう暗い。
列も、人影もない。
その夜、布団に入ってから気づいた。
今日一日、何かを変えようとした瞬間は一度もなかったことに。
抗おうとした記憶すら、最初から思い浮かばなかった。
あの言葉を、明日も言う気がしている。
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