
「こちらの方、郵便物が戻ってきています。」
若手の社会福祉士である僕は、同僚からの報告を受けていた。
それは、僕が手配した緊急の郵便物だった。
「訪問しないの? 電話も通じなかったんでしょう?」
同僚が心配そうに言う。
「……ケアマネがいれば、もう少し安心なんだけどな。」
「そんなこと言わないで。新しいケアマネ事務所が設立されるから。」
僕は公用車で高齢者が住む廃墟のアパートに向かった。
周囲は静まり返り、冬の寒さが身に沁みる。
そのアパートは、かつては賑わっていたが、今では僕以外にはほとんど住民がいない。
階段を上り、目的の部屋の前に立つ。
一瞬、息苦しさを感じ、重い体を引きずるようにノックをする。
返事はなく、心の中で不安が膨らむ。
ダメ元でドアノブを回すと、あっさりと開いた。
「お邪魔します。」
薄暗い室内に足を踏み入れると、すぐに異臭が鼻をつく。
まるで腐った食材が放つ、耐え難い臭いだった。
「また何か…」
口に出しかけた瞬間、目の前の光景が凍りついた。
奥の部屋に目をやると、かつての住人が横たわっていた。
彼は薄暗いベッドの上で、腐敗しきった姿をさらけ出していた。
その瞬間、僕は頭を強打されたような衝撃を受け、意識を失った。
意識が戻ったとき、身体が動かないことに気づいた。
まるで重い鎖で縛られているようだった。
声を出そうにも、口が動かない。
目の前には無数のハエが飛び交っていた。
「うう…痛い…」
頭の中が混乱し、全身が鈍い痛みで包まれている。
何が起こっているのか、理解できない。
「――恐らく、かなりの苦痛があったでしょう。」
検死官が静かに語りかける。
「あのハエは死体に必ず付くものでしょ。生きている人間を食べるものではない。」
検死官はデータを見せながら続けた。
「このハエは特に新しい種で、腐乱した肉を好むのです。」
「彼は脳卒中に襲われた後、じわじわと…。」
「ただ、彼の死因はどうなるでしょうか?」
「ハエが先か、老衰が先か、真相は闇の中です。
役所の職員への恨み言が書かれたノートが見つかりましたが…」
「施設に入れられたことで、最後の別れも果たせなかったという記述がありました。」
「ただし、認知症で文章が支離滅裂になっているので、結局は病死として処理されますね。」
後日談:
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