
中編
最高の女。
ソラン 2020年8月4日
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私が29の時でした。
理想の女に会ったんです。
ダメで元々すぐにナンパしました。
少しタレ目の大きな瞳、鼻はあまり印象に残らないけれど筋が通っていて、唇は官能的にふっくらとしていて、美しい歯並びを引き立てていました。
長く華奢な首筋から綺麗に浮いた鎖骨。豊かな胸。
ペタンコでくびれたウエストは、不思議と筋っぽくなく、薄っすらと脂肪が覆い、縦長なおヘソが中心部にありました。
細いくびれから、ハリのあるお尻。
長く真っ直ぐな脚は、メリハリがありました。
キュッと締まった足首が今も目に焼き付いて居ます。
身長は170ほど。
体重やスリーサイズはわかりません。
彼女は看護学校に通って居る学生で、その後頑張って正看護師になりたいのだと言っていました。
なんて素晴らしい女なんだろう。
その後チラリと見る事になるブラジャーにはEと表記してありました。
嘘だと思うでしょう?
私も嘘だと思いましたよ。
でも、居たんですよ。
しかも、口説き落として恋人になれたんですよ。
いやぁ。天下をとった気持ちでした。
私は身長172センチです。
ヒールを履いた彼女の横に並ぶと、鏡に映る自分がとんでもなくダサく見えましたが。
不思議なものですね。
客観的に見て自分のみっともなさが目立つ、そのツーショットが誇りに思えてくるんですから。
いつもは好きじゃない六本木も、彼女を連れていると、とても素晴らしい街に思えました。
勝手にVIP扱いしてくれるんですから。
こんなにいい女を連れてるんだから、この男は大金持ちだ!と思うんですかね?
そんな露骨な下品な街が最高だと思いました。
これが、六本木だの麻布だの広尾だの一応銀座も。特権階級ぶった業界人が練り歩く気持ちなんだと。
私は大手ですが地味な職種でしたから。
コンプレックスがあったんでしょうね。
広告代理店の同窓生に彼女をひけらかしたり、マスコミ界隈の友達に会わせたり、医学生に会わせたりしました。
彼女を置いてトイレなんかに立ちはしませんでしたよ。
気遣いが出来て、明るくて、社交的で、だからって軽い様子や下品な様子は微塵も見えない。
こんないい女を、もし取られたらたまったもんじゃありませんからね。
会う奴会う奴の悔しそうな顔を見るのが快感でたまりませんでした。
私は彼女を独占したくなりました。
結婚だ。
こんな女2度といやしない。
いたって、私の恋人になってくれやしない。
私ダイヤの指輪を買いました。
今の男女は信じられないかもしれないですけどね、婚約指輪は給料3ヶ月分が目安ってのがまだ残ってたんですよ。
私は必死でしたよ。
彼女はあっさりOKしてくれたんです。
彼女のご両親に挨拶に行きました。
彼女が学校を卒業したら、結婚を許可すると言ってくれたのです。
最初の方は、彼女の父親にとても緊張していました。
こんなに素晴らしい美女が娘だったら、とんでもない高いハードルを求めてくるのかなと思っていたのですが。
拍子抜けしました。
私は彼女を手に入れられるのなら、腕の1本折ろうが構わない気持ちでいましたから。
私は天に昇った気持ちでした。
この女を手に入れたんだ。
私は満足していました。
失礼。
彼女の声について言及していませんでしたね。
彼女の声は、甘く、少し高く、でもキンキン響かず。
ええ。
とにかく最高だったんです。
今でも全てを思い出せる。最高の女です。
ある日、彼女のバッグから年季の入ったブランド物の手帳が見えたのです。
私は嫉妬にかられました。
この手帳は、彼女の昔の男がプレゼントした物だと思ったのです。
その手帳を手に取り、読んでしまったのです。
そこには
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
私の見た目に群がる男は皆んな死んでしまえ
男は全員死ね
大っ嫌いなんだよ
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
結婚もいいかもね。
ゆっくり殺せる。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
そう書いてあったのです。
しかも、書き殴った様子はないのです。
丁寧に丁寧に書いてあったのです。
通常の筆圧で。
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