
「もうすぐ『消えた影』が現れる時間かもしれないな。」
「消えた影?」
俺は隣に座る不気味な男の顔を見つめて聞き返した。彼は黒いコートを羽織り、目は隈ができていて、悲しげな笑みを浮かべていた。
「この廃工場の近くに住む者から聞いた話なんだが、『消えた影』というのは、ここに来た者の心の闇を具現化したものらしい。夜が深まるにつれて、過去の罪や後悔がその人の影になって現れるそうだ。」
俺たちは工場の無惨な壁に背を預けていた。時折、風が吹き抜け、古い機械の金属音が耳をつんざく。時計を見ると、既に深夜の1時を過ぎていた。
この廃工場は、かつての栄光を失い、今はただ人々の忘却の中に埋もれている場所だ。自分の過去を忘れようとここへ来た俺は、果たして何を求めているのかも分からない。
「俺は、家族を失った。病気で。最期の言葉も交わさず、彼女は去ってしまった。俺は今も、あの瞬間を忘れられない。」
男は静かに語り始め、俺は彼の言葉に耳を傾けた。この工場に来る者たちは、何かしらの理由を抱え込んでいるのだろう。
「『消えた影』は、実際の影ではない。お前の心の中にある、消したい記憶が姿を変えて現れるのだ。」彼は続けた。
俺の心臓が急に高鳴り始めた。すると、突然周囲が静まり返り、暗闇の中に何かが動く気配を感じた。視線を感じ、背後を振り返ると、薄暗い影がこちらに向かってくるのが見えた。
「おい、気をつけろ。」男が低い声で警告する。
俺は恐怖に震えながら、影をじっと見つめた。影はまるで自分の過去の影のように、どんどん近づいてきた。恐怖が俺を包み込む。
「逃げろ!」男が叫ぶ。影は俺の心の奥に潜む罪を捉え、俺の周りを囲んでいく。身動きが取れない。
「やめろ!もう過去は終わったんだ!」俺は叫ぶが、影は無言のまま俺に迫ってくる。
その瞬間、男の声が耳に響いた。「お前の選択で、未来は変わる。逃げるな。」
俺は力を振り絞り、男の言葉を思い出す。心の闇と向き合うべきだと。俺は影に向かって手を伸ばした。
「お前は俺の一部だ。」そう言い放ったとたん、影は消えていった。
辺りの静寂が戻り、男は微笑んでいた。「よくやった。今、お前は新たな一歩を踏み出した。」
俺は立ち上がり、心に少しの安どを感じた。これからの人生をどうにかして生き抜こうと、決意を新たにした。
その時、ポケットの携帯電話が震える。画面を見ると、消えたはずの家族からのメッセージが届いていた。
「帰ってきて、待ってるよ。」
涙が頬を伝う。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。


