
私は福祉関連の施設で経理を担当している。誰にも話していないが、私は「見えないものが見える」体質だ。見えるものの姿は、その時の体調や環境によって異なる。半透明だったり、色が抜けていたり、目がないこともある。
ある日、振込のために銀行に足を運んだ。銀行の待合室には、ソファに座る二人の客と、車椅子に座った老婆がいた。老婆の背後には付き添いがいるのだろうと考え、私は番号札を受け取ってその老婆の斜め後ろに座った。
待合室の雰囲気は静かで、車椅子の位置は人の邪魔になることなく、まるで誰も気に留めていないようだった。自分の番号が呼ばれ、窓口で数枚の伝票を行員に渡し、ソファに戻る途中で老婆の横を通った。その時、老婆は全く動かず、首を前に垂らしていた。首筋には何かの傷のような模様が見えた。
薄着の老婆の両腕には、青紫の痣が点在していた。お年寄りは怪我が治りにくいと聞いたことがあるので、その時はそれを思っただけだった。
その後、待っている間、私は老婆の背中を見続けた。車椅子の背もたれには「介護付き有料老人ホーム 〇の里」と書かれていて、その名前には不吉な思い出があった。数年前に統廃合された施設で、今は廃墟になっている。
廃業の理由は、施設の職員が利用者の金を横領したことに起因していた。利用者は自らの体を傷つけ、虐待を訴えようとしても、認知症のせいで信じてもらえなかった。その女性は絶望の果てに、遺書を残して命を絶った。
再び私の番号が呼ばれ、窓口へ向かって振込伝票の控えを受け取った。振り返ると、老婆が顔を上げて私と目が合った。しかし、その目は無かった。二つの黒い穴と半開きの口が、私に向かって「ニタぁ」と笑っていた。瞬間、めまいがして、近くのテーブルに手をついた。
行員が心配して声をかけてくれたが、私が振り返った先には、老婆の姿はもうなかった。車椅子も、彼女も、そこには存在しなかった。
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