
長編
『貸してぇ~』
ぼろぼろ 2018年5月9日
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少し後味の悪い話になりますが ご容赦下さい。
独身時代から かれこれ20年以上の付き合いになるKさんは
ご夫婦でスナックを経営されていました。
私の友人は美容師として働きながら週に2~3回
そのスナックでアルバイトをしていたので、私も よく
飲みに行っていました。
ご夫婦には お子さんは居なかったので 私達の事を
とても可愛がってくれました。
年の離れた妹というより、どこか娘のように思って
いらっしゃる節が ありました。
(以下、Kさんを ママと呼びます。)
今回は そのママの話です。
ママには何かを感じ取る能力が あったのです。
“霊感が ある” などとは決して公言しませんでしたが
ママから助言された客は ことごとく難を逃れていました。
そんな事が続くうちに ママには特別な能力が備わって
いると常連客の間では周知の事実となっていました。
中にはママに相談する事を目的で通ってくる人も居ましたが
そんな方たちには 、
「私には分かりません。」
「私はスナックのママで 占い師では ありません。」
で通していました。
ママが助言するのは あくまでもママ自身のアンテナ?に
引っ掛かった人に限定されていました。
ある日の事。
私が飲みに行くと「ちょっと話が あるんだけど今日、時間ある?」
とママに言われました。
翌日は仕事が休みだったので私は閉店まで残る事にしました。
閉店時間になるとマスター(ママの ご主人)を先に帰して
私とママの二人きりになりました。
何を言われるかと心臓が高鳴りました。
「桃子(私:仮名)ちゃんに負のオーラが まとわりついてるんだけど」
「何か心当たりは無い?」
いつも優しく可愛がってくれていたママとは別人のように
ズバッと切り出されたので私も真剣に そして必死に
思い返してみたのですが、思い当たる事は ありませんでした。
心霊スポットにも行ってませんでしたし
悪い事が続いたりとかも ありませんでしたし。
本当に いつもと変わらない日常を送っていたのです。
私が応えられずにいると
「そうねぇ… 生きている人の念かなぁ…」とママが言いました。
“私、誰かに恨まれてるっていう事?…”
誰かに恨まれるような覚えは無かったのですが
再び思い返してみると
“もしかして… あれの事?”
思い当たるという程の事でも無かったのですが
強いて言うなら あの事しか考えられなかったので
ママに話しました。
ママには言ってなかったのですが、一ヶ月ほど前に
常連客のNさんと食事に行っていたのです。
1:1なら断っていたのですが、アルバイトをしていた
私の友人(Y)と二人で誘われた事、
Nさんは30代で会社経営をしている社長だった事から
何の不信感も抱かずOKしたのです。
料亭とまでは言いませんが 和食の高級店で
とても20代のOLが行けるような処では
ありませんでした。
そこでは なんと言うことの無い世間話を
しながら食事を楽しみました。
が…
問題は その後、喫茶店に場所を移した時に
起きました。
Nさんが私達に お金の無心をしてきたのです。
経営している会社の業績が思わしくなく、
銀行からも増額融資を受けられず 非常に
厳しい状態だという事でした。
しかし、私もYも独り暮らしで人に お金を貸せる程の
余裕は ありませんでした。
Nさんは それを知った上で、「名前だけ貸して」と
言ってきました。
つまり、私達が消費者金融から お金を借りて
その お金をNさんに貸す。
そして月々の返済分はNさんが私達に必ず返すから、
という お願いでした。
するとYが機転を利かせ
「私も既に借入れが あるから無理。」
「これ以上は借りられないんだ。」
「バイトしてるのは返済の為なんだよね。」
「桃子も同じで今、バイト探してるんだよね?」
と私に振ってきたので、私もYの話に合わせて
断りました。
Nさんは それ以上は食い下がってくる事もなく
そのまま喫茶店を出て別れました。
黙って私の話を聞いていたママは呆れながら
「まさか、桃子ちゃん達にまで無心するなんて…」
「どうしようもない人だわ…」と言って教えてくれました。
Nさんは私達を食事に誘う前から いろんな所で
お金の無心をしていたそうです。
Nさんの悪い噂はママの耳にも入っていた為、
ママもNさんからの借金の申し入れを断っていたそうです。
そして それからパッタリと飲みに来る事は無くなったと…
ママの話によるとNさんには良からぬものが寄ってきていて
負のオーラに包み込まれている状態だとの事。
そして、私も多少なりとも影響を受けているとの事でした。
ママは、
「原因がNさんなら大丈夫。心配しないで」と
言ってくれたので 私は安心しました。
事実、私の身に良からぬ事が起きる事もなく
日々を過ごす事が出来ました。
話は変わり、つい先日の事です。
私は久し振りにママと お茶をしました。
友人のYは結婚を機に旦那さんの実家へと
引っ越していきましたが、私とママの交流は続いていました。
子育ての最中は年賀状の やり取りだけになりましたが
子育てが一段落してから再び たまに会うようになったのです。
6年前にマスターが亡くなって以来、ママ一人で
お店を切り盛りしてきたのですが、夜の仕事は
体力的にキツイという事で お店をたたむ事に
なったのです。
今後の事は故郷に戻り ゆっくり考えるという事でした。
「桃子ちゃんとは もう会えなくなるかもね…」
しんみりとした空気の中、ママから驚く話を
聞かされました。
それは、会社経営をしていたNさんの話でした。
私の記憶からスッカリ抜け落ちていた名前を聞いて
鳥肌が立ちました。
お店をたたむ事になったママは閉店後、少しずつ
片付けを始めたそうです。
ある日の閉店後の事。
ママが一人で片付けをしているとドアが開き誰かが
入ってきたそうです。
ママは顔を上げて
「すいません。今日は もう閉店です」と言いかけて
腰を抜かしそうになったそうです。
そこに立っていたのはNさんだったそうです。
「貸してぇ~」
それだけ言うとNさんは スゥーと消えたそうです。
えっ?… 消えた?…
「ママ、幻覚でも見たんですか?」
私は心配になってママに訊ねるとママは ハッとした顔になって言いました。
「そっか。桃子ちゃんは知らなかったんだっけ…」
「Nさん、もう亡くなってるの。あれ、何年前だったかな…」
Nさんの名前が出てから何故か 鳥肌が止まらなかったの
ですが、亡くなったと知らされた時は 鳥肌を通り越して
身震いしてしまいました。
Nさんの会社は結局、倒産してしまったそうです。
その後、Nさんの消息を知る人は居なくなり
常連客の間でも話題に あがらなくなった頃、ママは
Nさんが亡くなったという話を常連客の一人から
聞かされたそうです。
交通事故だったそうですが、その場所はNさんとは
縁もゆかりも無い街だったそうです。
Nさんが何故、その街に行ったのか、家族にも
分からなかったそうです。
Nさんの会社と たまたま取引のあった常連客の耳に
情報が入り、ママも知る事になったそうです。
「そうか。当時はYちゃんも桃子ちゃんも結婚してて
暫く お店にも来てなかったもんね。知らないわけだ。」
そこでNさんの話は終了となりました。
Nさんに お金を貸さなかった事は正しかった…
それは当時も今でも そう思います。
仮に、私とYが お金を貸してあげたところで
20代のOLが用立てられる額で会社が どうにか
なっていたとも思えませんし。
でも、どうにも後味が悪いのです…
ママ曰く、
「気にしない、気にしない。桃子ちゃん達は何も悪くないよ。」
「自分よりも若い女の子を頼った時点で あの人は既に堕ちてたの。」
ママの言葉には説得力が あり、安心させられるのです。
※追記
先日、ママからNさんの話を聞いてから 当時の事を思い返して
Nさんに関連した話を投稿させて頂きましたが、
何か忘れている事が あるような気がして、ずっと考えていました。
そして、思い出した事をもう一つ…
当時は携帯電話など普及していない時代で、家電のみでした。
仕事から帰ると留守電を確認するのが日課だったのですが、
ある時から女性の声で留守電が入るようになりました。
「主人を返せ」
「何もかも知ってるんだから」
「泥棒猫」
そのような言葉が残されていました。
初めは相手の女性に まったく心当たりが無かったのですが、
「金の切れ目が縁の切れ目」
「金の無い男と地獄に堕ちろ。あーははははは」
そのメッセージで相手の女性が Nさんの奥さんだと気づきました。
が、私の電話番号はNさんにすら教えていないのに、なんで奥さんに
分かったのか…
しかも、Nさんは常連客でしたが、奥さんは お店には来た事が無く
面識すら無かったのです。
ママに相談すると、ママも困惑していました。
「Nさんの奥さん、子供を連れて実家に帰ったって聞いたけど…」
結局、なんで私の電話番号が奥さんに知れたのか、なんで私とNさんの仲を
疑っていたのか 分からず仕舞いでした。
この件を思い出して、ふと、思ったのですが、ママが私に
負のオーラが まとわりついていると言った 〝それ〟 は
実はNさんの念ではなく、奥さんの念だったのでは?…
今更ながら、そう思い ゾッとしています。
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