
長編
吸血鬼の女
匿名 2022年9月10日
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大学から東京に来た俺は、都内の割と安いマンションで一人暮らしをしていた。
駅までの道の途中の公園に献血のバスが止まっていることがよくあった。
献血バスで働いている若い女性看護師のひとりがとても綺麗な人だった。
モデルでもおかしくない小顔で二重瞼の綺麗な顔、後ろで束ねている長そうなブラウンの髪、また脚が長くとても魅力的な女性だった。
ある日曜日、また献血車が止まっていたので思い切って行ってみた。
すると献血車の中にあの女性がいた。間近で見ると本当に綺麗だった。
純白のナース服がよく似合っていた。
「では、針を刺しますね!」
そして針を刺される瞬間は思っていたより痛くビクッとなった。
そんな様子を見てニコっと笑う女性。
針を刺されたり、献血パックに血が溜まっていく様子は少し怖かったが、可愛い女性がそばにいるから頑張れた。
それからも、俺は何回か献血に通った。
あるとき、俺はダメ元で自分の携帯番号やメールアドレスが書いてある紙を女性に渡した。
彼女はこっそりとそれをナース服にしまいニコりと笑った。
その日の夜、知らないメールアドレスからメールが来た。
「連絡先教えてくれてありがとうございます。私は・・」
彼女はきゅら、外国人のようなちょっと変わった名前だった。
俺はきゅらとメールを何回かやり取りしていた。
そして、あるときの昼間に思い切ってメールで告白した。
すると、きゅらからメールが来た。
「あの彼女とかそういう関係にはなれないですけど、もしよかったら、私の部屋に来てくれませんか?」
俺は残念半分嬉しさ半分だった。付き合えないけど部屋に入れてくれるのか??
土曜日の夕方、俺たちは品川駅で待ち合わせした。
初めて見るカジュアルな服装のきゅらは予想以上に可愛いかった!
尻近くまであるウェーブがかったブラウンの髪。
街を歩きながら高そうなレストラン街に入っていく。
俺は財布の中を見て
「すいません、お金下ろしてきていいですか?」
するときゅらは
「いいよ!私が全部払うから。」
「え?」
俺は目が点になった。
確かに社会人のきゅらは俺よりいくつか年上だけど、まさか女性が全額出すとは夢にも思わなかった。
「ありがとうございます!」
「その代わり、私との約束守ってね?」
「勿論です!」
そういうときゅらはニヤリと笑った。
一瞬きゅらが悪魔の笑いのようにも見えたが、それがきゅらの可愛さだと思っていた。
そして高級そうな洋食店へ。
そして、奥のテーブルへ通された。
テーブルできゅらはウェイターに
「いつものコースを2名分・・」
「承知しました。」
どうも、きゅらはこの店の常連のようだった。
こんな高そうな店に頻繁に来れるなんて・・。
俺はきゅらが何者なのかさらに興味を持った。
そのあとは乾杯。
俺は白ワインに、きゅらは赤ワインを飲んだ。
はじめは、ごく普通のサラダ料理が出てきた。
そのあと、「血入りソーセージ」が運ばれてきた。
きゅらは、待ってましたというように笑い、目の前には真っ赤なソーセージ。
「血入りソーセージ」というと不気味な感じもするが、血をケーシングに詰めて固めたソーセージなのかなと思っていた。
そして、ソーセージを食べようとナイフを入れた瞬間、袋が破れてトロトロと流れ出す赤黒い血・・。
俺はギョッとすると、きゅらはニヤニヤと笑いながら、血まみれのソーセージを口に運ぶ。
俺は恐る恐る、ほとんど皮だけになったソーセージの一部をナイフで切り取り口に入れると・・確かに味は良かった。
普通のソーセージの何倍も濃厚な味わいだ。でもなぁ・・。
ソーセージの次はステーキがきた。俺のはミディアムステーキで、やっと本格的なご馳走が来たと喜んで、「さあ食べよう」と何気なくきゅらを見た瞬間、凍りついた。
きゅらの皿に載っていたのは、ほんの表面だけ焼いてあって残りは真っ赤なステーキ肉だった。
「え、何それ?」
「ブルーだけど?知らないの?」
「だって、生ですよね?」
「だからいいんじゃない!」
きゅらはほとんど生の肉を口に運び、目を閉じて満足そうに食べる。
そしてときどき赤ワインを飲むきゅら。
さっきから気になっていたが、きゅらの赤ワインは真っ赤で少しドロッとしている感じがした。
まさかと思うけど、動物か何かの血液を飲んでいるんじゃないかとか考えたりした。
きゅらはきゅらでいいとして、俺が自分の分のステーキ肉を口に運ぶと、
(うまい!!)
味は最高で、これだけ美味しい牛肉を食べたのは初めてだった。
きゅらとのディナーを楽しんだあとレストラン街から海沿いの道を進んだ。
「これからどこに行くんですか?」
「私のマンションだよ?」
「一人暮らしとかですか?」
「うん、そうだよ。」
若い女が品川で一人暮らしとか彼女は何者なんだとか考えたり。
そして港南の海が見える場所のマンションに来た。
「まさかここ?」
そこには、これまた高そうな高層マンションがあった。
きゅらの部屋に入ると、きゅらは俺に体を寄せてきた。
きゅらは、
「何ソワソワしてるの??」
「なんか、きゅらさんの部屋に入れると思うと!!」
そしてきゅらはさらに体を密着させながら
「そっか、じゃあ、もっとドキドキさせてあげるね!」
すると、きゅらがロープを取り出した。
「え、まさか??」
「そう、嫌?」
きゅらが聞くものの断る隙もなく、俺はきゅらにロープで後ろ手に縛られてしまった。
そして、きゅらは
「すごーい!恥ずかしい格好してるよ!」
俺はきゅらのような綺麗な女性の前で惨めな姿を晒していた。
俺はフローリングの床に腰を下ろしたまま、
「そして、本当バカな男だね。私とエッチなことできるとでも思ってたの?」
「え?どういうことですか?」
「あなたは私の獲物。はじめからあなたをエサにするために釣ったの!」
すると、きゅらはナイフを取り出した。
「や、やめてください・・」
きゅらは舌を出して、
「どこの血を舐めて欲しい?」
「え?血を舐めるって?俺の?」
俺は混乱していた。きゅらが何をしたいのか?、
「そう!人間にも人の血を求める人もいるんだよ?所謂、吸血鬼ってやつ!」
そしてきゅらはナイフで俺の体のあちこちに刃を向け、そして・・・
・・・
気がついたら、俺は病院のベッドにいた。
どうやら俺は、品川のマンション近くの道で倒れていたらしい。
大きな怪我はないが、俺の胸や腹には線状の傷があった。
さらに立ってみると体重が少し軽くなった気がした。
あのときのことは、夢なのか現実なのか今でも分からない。
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