
長編
夜師葬送
匿名 4日前
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いて、なんだか奇妙な光景だ。
大座敷には十一人の弔問客がいた。もっと大勢いたように感じたが、こうして見るとやけに少ない。
そして、座敷の中央にあるものを見て思わず絶句した。
舟。木製の舟が中央にあり、祭壇らしきものはない。まさかと思って舟の中を覗き込むと、白装束に身を包み、顔に翁の面をつけた帯刀老の姿があった。御遺体の周りを彼岸花が埋め尽くしていた。
私の知る葬儀とはあまりにも違う。
そうこうしていると、梟の面をつけた住職らしき人物がやってきた。
呆然とする中、奇妙な通夜が始まった。
◯
滞りなく通夜が終わると、弔問客たち数人が舟の傍に木棒を通して担ぎ上げた。
何をしているのだろう、と疑問に思っていると傍に葛葉さんがやってきた。
「これから埋葬に行くのです」
「え? 明日、葬儀なのでは?」
「いえ。葬儀は行いません。元より通夜の報せも限られた方にしか伝わっていないのです」
「これから火葬場に行くのですか? こんな時間では火葬場も開いていませんよ」
「火葬場にも行きません。これから裏山へ向かいます」
どうか、と葛葉さんは小声で囁いた。
私は頷いて立ち上がり、彼らの後に従って屋敷を出た。そうして、他の弔問客がしているように行燈に火を灯し、一列になって歩き始めた。男も女もめいめいに行燈を持って畦道を歩いていく。狂い咲く彼岸花が、裏山の古道へと続いていた。他の弔問客は互いになにか話しているようだが、私の場所からは内容までは聞き取れない。
苔生した石段を照らすように、石灯籠の火が揺らめく。
虫の音色で、山は騒がしいほどだ。赤い鳥居をくぐり、また赤い鳥居をくぐる。もうさっきから何度も鳥居をくぐっている気がした。
不意に、最後尾を歩く私の隣に、狐の面をつけた葛葉さんが並んだ。
「彼らは皆、わたくしと同じ奉公人でございます。旦那様と交わした契りに従い、今日までこうして仕えて参りました。旦那様が亡くなれば、もうここに残る理由はございません」
「そうでしたか。あの方々も、奉公人の方だったのですね。あれだけの人脈を築いてきた方だ。もっと大勢の人が弔問に訪れると思っていましたが、最期は身近な方々に見送って欲しかったのですね」
石段を登りきると、開けた場所に出た。そこには巨大な一枚岩が地面から生えていて、大きな注連縄がぐるりとその周辺を囲っている。その中央に舟は下
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- 美しく、淡々とした文の中に 戦慄の情景が浮かび上がる、 実話かどうか、というより文学作品として 素晴らしかったです。杏珠(あんじゅ)
- 実に雰囲気のある作品でした。サキ
- 綺麗な話だと思いました灯台番
- ずいぶんと書き慣れているなと感じました。迫りくる鳥肌が立つ緊迫した恐怖はないものの、読むと情景が目に浮かびまるでドラマの脚本を見ているかの様でした。素晴らしい!!きつね猫
- むずい漢字や言葉使ってるだけ。匿名
- 素敵な話でした桃ノ木