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長編

夜師葬送

匿名 4日前
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ろされた。  これからなにをするというのだろう。  近づこうとして、葛葉さんが私の手を握って止めた。 「旦那様と我々が交わした約束は、あの方の霊力と引き換えに、あの方に仕えることでした。身の回りの世話をし、この土地を守り、仕えよと」  闇の奥、行燈の灯りに淡く照らされた彼らが舟のなか、横たわる遺体へと手を伸ばす。 「死後、旦那様の血肉を喰らうことで、我々の契約は終わるのです」  ごきり、と。  闇の奥で音がした。その音を皮切りに、それらが手を伸ばし、顔を突っ込み、骨を砕き、肉を咀嚼する音が闇に響いた。帯刀さんの体は目の前で引き裂かれ、無残に喰われていく。  思わず後ずさった足元で小枝が折れた。微かな音。しかし、その音にまだかろうじて人の姿を保っているそれらが振り返る。十一もの異形の双眸が、闇の中からまっすぐに私を視ていた。  獣の面をつけた理由。それは、私が人だということを隠すためだ。  悲鳴をあげようとした私の手を、葛葉さんが引いた。  気がつくと、屋敷の門の前に戻ってきていた。あの道程をどうやって戻ってきたのか、まるで思い出せない。  狐面をつけた彼女の瞳が、金色に輝いていた。 「旦那様は本当に貴方のことを好いてらっしゃいました。本来なら、貴方をここへ呼ぶべきではなかったのです。それでも旦那様は貴方に見送って欲しかったのでしょう。そのためにわたくしに最期のお役目をお与えになった」  呆然としている私の前で、彼女は懐から小さな袋を取り出し、愛おしそうに頬ずりした。 「わたくしが一番欲しいものはもう頂きました。さあ、これでお別れでございます。決して後ろを振り向かぬよう。まっすぐにこの道を戻ってくださいまし」  私は何か言おうとしたが、結局なにも言うことができなかった。ただ彼女に向かって頭を下げ、それから踵を返して道を戻った。  行燈を手に畦道を歩きながら、闇夜に淡く光る彼岸花を見やる。  不意に、気がついた。 「ああ、そういうことか」  葛葉さんのつけていた狐の面。  彼岸花、又の名を狐花。  この時期に、彼岸花が咲くはずがない。  狐花、それは別名を狐火という。  これは彼女からの手向けなのだろう。

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  • 美しく、淡々とした文の中に 戦慄の情景が浮かび上がる、 実話かどうか、というより文学作品として 素晴らしかったです。
    杏珠(あんじゅ)
  • 実に雰囲気のある作品でした。
    サキ
  • 綺麗な話だと思いました
    灯台番
  • ずいぶんと書き慣れているなと感じました。迫りくる鳥肌が立つ緊迫した恐怖はないものの、読むと情景が目に浮かびまるでドラマの脚本を見ているかの様でした。素晴らしい!!
    きつね猫
  • むずい漢字や言葉使ってるだけ。
    匿名
  • 素敵な話でした
    桃ノ木
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