本当にあった怖い話

怖い話の投稿サイト。自由に投稿やコメントができます。

長編

夜師葬送

匿名 4日前
怖い 721
怖くない 588
chat_bubble 6
43,603 views
なくとも私は彼のことを敬愛していた。  訃報を受けた時、流石に動揺した。もとより高齢だということは重々承知していたし、肺を患っているということも知らされていた。それでもやはり、訃報を聞いた時には言葉を失わずにはいられなかった。  訃報を報せてくれた柊さんは、必ず通夜に参加するようにと厳命した。  帯刀老を『先生』と呼び親しんでいた柊さんも当然出席するのだろう、と思っていたが、柊さんはきっぱりと出席しないのだと言った。 『私は招かれていないので、足を運ぶことは出来ません。変わりに貴方が先生を弔ってあげて下さい。正直、あの先生が人を葬儀に招くとは思っていませんでした。貴方は余程、先生に好かれていたのですね』  口惜しい、と柊さんは私のことをからかった。    ◯  山の稜線に陽が沈むと、群青色の空は瞬く間に漆黒の闇に変わった。  緩やかな畦道を登りきると、小高い山の麓に裾を伸ばすように広大な屋敷が見えた。軒先に吊るされた提灯の明かりが、夜の闇の中に滲むように浮かび上がっている。  私は小走りで畦道を駆け下りながら、門の前に一人の女性が立っていることに気がついた。黒紋付に身を包んだその女性を私はよく知っている。 「葛葉さん。この度はご愁傷様でした」 「遠路遥々、有り難うございます。旦那様も草葉の陰で泣いて喜んでいらっしゃるでしょう」  ハンカチで目元を拭う彼女は長年、帯刀さんの身の回りの世話をしていた女性で、歳は私とそれほど変わらないというのにとても聡明で美しかった。他の奉公人たちと違い、彼女は来客の対応を役目としていたので親交がある。 「大野木様。今宵はこちらを決して外さぬよう、お願い致します」  彼女が差し出してきたのは、口の部分が開いた鴉の面だった。 「旦那様の御遺言です。弔問客は必ず面をつけるように、と」  そう言って、彼女は白い狐の面を顔につけた。口の部分が開いているのは、面をつけたまま食事をする為だろう。 「帯刀さんらしい趣向ですね」 「旦那様は殊更、大野木様のことを気にかけていらっしゃいました。くれぐれも粗相のないようにと言付かっております。これから屋敷へ入りますが、決して面を外されませんよう、お約束ください」 「わかりました。必ず守ります」  そうして、私も鴉の面をつけた。その面はまるで私の為に誂えたようだった。  木製の太い扉を開けると、中庭を埋め尽くすように

この怖い話はどうでしたか?

f X LINE

chat_bubble コメント(6件)

  • 美しく、淡々とした文の中に 戦慄の情景が浮かび上がる、 実話かどうか、というより文学作品として 素晴らしかったです。
    杏珠(あんじゅ)
  • 実に雰囲気のある作品でした。
    サキ
  • 綺麗な話だと思いました
    灯台番
  • ずいぶんと書き慣れているなと感じました。迫りくる鳥肌が立つ緊迫した恐怖はないものの、読むと情景が目に浮かびまるでドラマの脚本を見ているかの様でした。素晴らしい!!
    きつね猫
  • むずい漢字や言葉使ってるだけ。
    匿名
  • 素敵な話でした
    桃ノ木
0/500

お客様の端末情報

IP:::ffff:172.30.2.48

端末:Mozilla/5.0 AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko; compatible; ClaudeBot/1.0; +claudebot@anthropic.com)

※ 不適切な投稿の抑止・対応のために記録される場合があります。

grid_3x3 話題のキーワード

search

サクッと読める短編の怖い話 サクッと読める短編の怖い話

読み込み中...