
中編
トミノの地獄に節付けて歌った
匿名 3日前
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はしたことなかったんだよ、小心なもんで。
繰り返し繰り返し読んで、しかしまさか暗記できてるとは思わなかったな。
それに、詩に節付けて歌うなんてやったことがなかった。
それが口からするするするーって出てきたんだ。
「かーーわいーい トミノーは たーまをはくーー」ってふうに。
電話の向こうは相変わらず無言だった。
こっちはこっちで、歌ううちにだんだんトランス状態というか、
詩に入れ込んでものすごく悲しい、静かな怒りの心情に支配されつつあった。
どうしてどうしてどうして。
なんでなんでなんで。
電話口から、ギーとかガーとか、妙な音がして我に返った。
機械音というより、古い重いドアが軋むみたいな音だったよ。
とっさに、「鋼の錬〇術師」に出てくる「真理の扉」が思い浮かんだ。
全身の毛穴が開く感じがした。恐怖じゃなく、喜びで。
まだ詩は全部終わってなかったけど、夜中なのに大声出して笑った。
その瞬間、電話は切れた。
大変だったのはそこから。
もともと風邪気味だったせいもあるだろうが、吐くし下すし出てきたもんに血は混じってるし、
正直な話これは死ぬなって思ったよ。
だけど家族は誰も起きてこないし、とにかく出すものは出そうと朝までトイレで頑張ってた。
朝には熱も下がって、念のため病院に行きはしたけど点滴打って終わり。
今も普通に生きてる。
その会社は潰れたらしかった。
潰れたと知ったのはごく最近で、多分普通にブラックだったから回らなくなって潰れたんだと思うけど、
それまでの間に何人かの社員が事故ったり病気になったりしていたみたいだ。
それも勤務形態のせいだといえば、そうなんだろう。
だけど、社長が死んだ理由は「トミノの地獄」の呪いだと信じている。
そうでないとこっちの気持ちも収まらないからね。
不遇でない今、もうあの歌は歌わない。
この先も、きっと。
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