
長編
赤
ハンター 2020年7月28日
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初めまして。
皆様は好きな色、嫌いな色はあるでしょうか?
私は赤色がとても苦手です。
苦手と言うより恐いのです。
ただ、赤信号を見て恐ろしい気持ちになるとか、トマトを見て気分が悪くなるといったような事ではありません。
赤い服、もう少し言えば赤色で全身を統一した方を見ると咄嗟に目線を外してその場から立ち去りたくなるのです。
私の叔母は赤色の服がとても似合う人でした。
子供心に帽子まで赤一色で身なりを整えるようなそんな叔母は、今思えばあっけらかんとした人柄や人懐っこい性格もあって私はとても叔母の事を慕っていました。
足元からスカート、季節に合わせたトップス。
時には赤い帽子。
叔母には本当にとてもよく似合っていて、憧れを抱いたものでした。
親族も私のそんな叔母への憧れに気付いていたと思います。
"今日は赤いおばさんのところに行くよ"
"今日は赤いおばさんが来るよ"
と、私はよくそう言われたのを覚えています。
私が中学生の時に、叔母の家に寄る機会がありました。
いつも元気に笑顔で迎えてくれる叔母。その日も叔母は私が来たことを察してとびきりの笑顔で私を迎えてくれました。
叔母はとても話が上手く笑い上戸で、私もそんな叔母と話すのが大好きでした。
その日も取り留めのない話をしてけらけら笑っていました。
が、突然叔母が"Aちゃん少し待ってね、お客さんが来たみたいだから"と玄関口に向かって行きました。
お喋りに夢中になっていたので、その時に訪問を報せるチャイムが鳴ったかは記憶にありません。
叔母は少しして戻って来ました。
叔母の夫である叔父が"誰だった?"というような事を訊ねたと思います。
叔母は"知らない人、道を教えて下さいって"、とそう言いました。
"そうか"、とそこでその話は終わりました。
私は叔母との会話に戻りました。
少しして叔母がこんな事を言いました。
"さっき道を訊きに来た人ね、おばさんと同じで頭から何から赤色だったのよー!"と笑いながらそう私に伝えたのです。
私は叔母が冗談で会話を盛り上げる為に言ったのだろうと深く考えずに"えー!おばちゃんみたいな綺麗な人だったのー?"とか、そんな軽い返し方をしたと思います。
叔母も"まあおばちゃんには負けるけどね!"といった返しをしたくらいで、何も違和感はありませんでしたし、叔母も終始そんな感じでその日の夜に私は家族と実家に帰宅しました。
それから恐らく一週間も経たない間だったと思います。自宅の電話が鳴り、私が受けました。
"ああAちゃん?xxだけれど、今誰かいる?"
叔母からの電話でした。
その時には両親は家を空けていたので私はその事を伝えました。
"そう、なら帰って来たら連絡してって伝えておいてくれる?"
いつもと変わらぬ叔母。
私はうん!と返事をして電話を切りました。
父が帰宅して叔母からの伝言を伝えました。
父はすぐに叔母に電話をしていました。
会話の内容はわからなかったのですが、父は何か宥めると言うか、落ち着かせようとしているように感じました。
会話が終わり父に、何だったのー?と軽く訊ねたのですが、仕事の話だよと軽く返されたので私はそこまで深く考えずその話は終わりました。
それから二日後ほど、叔母が急死しました。
何か持病がある訳でもなく(これは後で聞いた事ですが)健康そのものだった叔母は心筋梗塞で突然に亡くなったのです。
私はただただ悲しくてお通夜もお葬式もずうっと泣いていました。
特に実の妹である叔母を亡くした父と、実の妻を亡くした叔父は真っ暗な顔をしていました。
それから15年が経ち、私も成人をして地元を離れ大学生活を送っていた頃、叔父が亡くなったとの連絡が入りました。
叔父も心筋梗塞だったそうです。
叔母と同じく健康には問題がなかった叔父。
もう何年も会ってはいない叔父でしたが、唐突、と言っても人の死はそんなものかも知れないなあなんて思いながら叔父の葬儀に出席しました。
父母を含む親族も参列しており、久々の家族との再会がこんな形になるなんてなあ…と私は思いながら叔父とのお別れを済ませました。
最後に火葬場で叔父を見送った後、父と二人きりになった時にふとこんな話をされました。
"赤い叔母さん覚えてるだろう?昔可愛がって貰ってたxxおばさんだよ"
"あのなぁ…ooくん(叔父です)が亡くなったからって訳じゃあないんだけどな、何かなあ…xxが死ぬ前にこんな事を言ってたんだけどなあ…"
父の話はこうです。
叔母が亡くなる前に叔母から連絡があったと。
"道を訊ねてきた女の人が今日も来た"
"その人はまた同じ道を訪ねて帰って行った"
"その間にその赤い服の女性の夢を見た"
父は気にしすぎだと取り合わなかったそうですが叔母は何か気持ちが悪いと言っていたと。
"ooくんが亡くなる少し前になあ、xxみたいに全身真っ赤な服の人が道を訊ねに来たって言ってたんだけどな、もちろんxxとは全くの別人なんだけど、と言うか当たり前なんだけどな"
"ただ、少し思い出してしまったのかもわからないけれど、夢にxxが出たんですよ、って連絡があってな"
"ただ、ooくんが亡くなる少し前に、またその同じ全身赤い服の女の人がまた道を訊ねてきたらしいんだよ"
"そこでooくんは、はっきりと夢に出てきたxxはxxじゃあない、って思ったらしいんだ"
"最近疲れてるんですかね…って笑ってたけれど、その後すぐこれだもんなぁ…まあお前は何言ってるんだと思うだろうけど、ま!そういうこと!"
何がそういう事なのかさっぱりわかりませんでしたが、少し嫌な気持ちになったのは覚えています。その女の人は誰なのか、道を訊ねられたとは聞きましたが一体何処への道だったのか。不思議と言うより不気味な気持ちになりました。
叔父を見送り、叔母の墓参りを済ませて私は高速バスでまた一人暮らしをしている自宅へ向かいました。
夜行でおよそ6時間ほどの長旅、某インターでの休憩の際に用を足すためお手洗いに行った私は手を洗うため洗面台の前にいました。
手を洗っていると後ろの個室のドアが開きます。
帽子を目深に被っているため顔は見えません。
真っ赤な、帽子。
着ている服も真っ赤でした。
コツコツと靴音がします。
その女性がこちらに、と言っても洗面台は一列に並んでいるのでこちらに来るのは当然なのですが私は酷く恐ろしい気持ちになり、手も乾かさずに逃げるように、と言うより完全に逃げてお手洗いを出て、走ってバスに乗り込みました。
偶然だと思います。
全身を赤でコーディネートした女性はいくらでもいます。
でも、怖くて仕方なかったのです。
あの女の人は何なのでしょうか。
叔母と叔父に道を訊ねた人なのでしょうか。
何処への道を訊ねたのでしょうか。
叔母や叔父に関係がある人なのでしょうか。
親に話しても何かを隠しているようにも、何か思い当たる事があるようにも見受けられません。
このところ、私はまるで叔母そっくりな格好をした、でも叔母では決してない真っ赤な服の女性の夢を見ます。
いつか、私は現実であの真っ赤な服の女性から何処かへと向かう道を訊ねられるのでしょうか。
それが、私の人生を終わらせる何かしらの合図となるのでしょうか。
憧れだった叔母の綺麗な赤で揃えたコーディネートを真似したいとは、今はもう思えません。
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