
冬のある夜、私は都心の高層ビルのある部屋を見に行くことにした。投資用物件を探していた私は、安価な物件を見つけ、思わず内見を申し込んだのだ。ビルのエレベーターは静かで、階数を上がるにつれて、外の街の喧騒が遠ざかっていくのを感じた。部屋のドアを開けると、内部は古びたカーテンがかかり、薄暗い照明が不気味な雰囲気を醸し出していた。
しかし、室内に足を踏み入れると、意外にも広々とした空間が広がっていた。白い壁、清潔感のあるフローリング、そして最新の設備が整っている。これでこの価格はお得だと感じ、私は興奮を抑えつつ部屋を見回った。
すると、ふと気づいたのは、部屋の隅々に散らばる小さな黒い羽根だった。何かの虫だろうか? それとも、もっと恐ろしいものなのか?不安がよぎり、私は不動産業者に尋ねた。
「この物件、どうしてこんなに安いんですか?」
業者は少し間を置いてから言った。「実は、前の住人が亡くなったんです。すぐに発見されたわけではなく、しばらく放置されていたそうです。」
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。私はすでにその場所を踏みしめていたのだ。業者は、内装が新しいから問題ないと強調するが、私の心には恐れが広がっていった。部屋に漂う異様な空気、そして無数の虫たちが、過去の出来事を知っているかのように感じられた。
後で知ったのだが、亡くなった後に部屋に残る匂いは、どれだけ掃除をしても消えないという。私はその場で退散することにした。無知だったからこそ、誰もが避ける場所に足を踏み入れてしまったのだ。消えた影の部屋の話は、私の心に深く刻まれた。もう二度と、あの場所には近づけない。
結局、投資は失敗に終わり、私はそのままサラリーマン生活を続けることにした。あの夜の出来事は決して忘れられない。自分だけが知らないまま、恐怖の場に足を踏み入れてしまったことを。
あの部屋は今も、誰かの記憶の中で生き続けているのだろうか。
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