
長編
山祭り
あああああああ 3日前
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うな気がする。
俺の話が一段付いた時、父は少し寂しそうな顔をした。
「ごめん。もっと一緒にいたいけど、そろそろ時間みたいなんだ」
時は歩みを止めてくれなかった。でも、嫌だと駄々をこねたところで詮無い事。
大事な人に心配をかけるだけ。ああ、わかっている。笑って見送ろう。
「口惜しいよ、おまえたちの力になってやれなくて…」
「大丈夫、任せろよ。俺がいる。」
長男だもの。俺は親指を立て、父に向かって、偉そうに大見得を切った。
安心したように頷く父に、母がとても優しい眼差しを向け、父が最上級の笑顔を返す。
「…じゃあ、そろそろ行くよ」父は、踊りの輪の方を向いた。
「父さん」呼びかけずにはいられなかった。
父が振り返る。
「俺、二人の子供で良かった」本当に、そう思った。
父は嬉しそうに笑い、そのまま煙のようにすうっと姿を消した。
母はしばらく無言で父が姿を消した辺りを見つめていたが、やがて諦めたように首を振り、「帰りましょう」と俺を促した。
翌朝、まだ眠っている母を部屋に置いて、奥貴船橋の袂まで行って見た。
昨夜の、橋の袂をくっと左へ折れ、山の中へ入る細い道は、やっぱりなかった。
あの老人が言っていた。“山祭り”は、時が合わねば成らないのだと。
それは俺たち親子が見た幻だったかもしれない。
でも、逢いたい人に会え、伝えたい事を伝えられた。幸せな旅だった。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(10件)
- 凄く怖かったです。でも良い話でした。凄く良かったです。でも怖い話は怖かったです。また怖い話を見ます。すみっコぐらし
- 私も亡くなった両親に会いたいと思いました。 子供に戻って、たくさん話がしたい。 貴船の情景に、思わず涙が出ていました。まりん
- こういう話は端的に書きなさい。先生
- 素敵なお話をありがとうございました。貴船奥宮は摩訶不思議な空間です。改装される前の奥宮で龍穴から出てきた神様に遭遇したことがあります。そこは異空間ですね。追体験できました。さら
- なんて素敵な…切なくなりました。 逢いたい人…私は母に逢いたいです。使う・選ぶ言葉も文体も素敵ですね… 同じ伝えるにしても本当、文才のある方っているんですね〜 情景まで浮かび、感動しました。K
- 皆様、コメントありがとうございます。La
- 涙出ちゃいました。とてもステキなお話です。うんこりん
- 久しぶりに、活字で異次元を体験させていただきました。サキ
- この親子だから起こった奇跡!涙涙!匿名
- 凄くよいお話をありがとうございます。感動しました。?