
長編
山祭り
あああああああ 3日前
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久しぶりに休みが取れた。たった2日だけど、携帯で探される事もたぶんないだろう。
ボーナスも出た事だし、母に何か旨いものでも食わせてやろう。そう思って京都・貴船の旅館へ電話を掛けてみた。川床のシーズン中だが、平日だったから宿が取れた。
母に連絡を取ると大喜びで、鞍馬も歩いてみたいと言う。俺に異存はなかった。
京阪出町柳から叡山電鉄鞍馬駅まで約30分。その間に景色は碁盤の目のような街中から里山を過ぎ、一気に山の中へと変化する。また、鞍馬から山越えで貴船へ抜けるコースは、履き慣れた靴があればファミリーでも2時間前後で歩く事が出来るし、日帰りなら逆に、貴船から鞍馬へ抜け、鞍馬温泉を使って帰る手もある。
その日もさわやかな好天だった。荷物を持って歩くのも面倒なので、宿に頼んで預かってもらい、それから鞍馬山へ行った。堂々たる山門を潜った瞬間、いきなり強い風が吹き、俺を目指して枯葉がザバザバ降って来る。落葉の季節ではないのだが、母とくれば必ずこういう目に遭う。天狗の散華だ、と母は言う。迷惑な事だ。途中からロープウェイもあるが、母は歩く方を好むので、ところどころ急な坂のある参道を歩いて本殿を目指す。
由岐神社を過ぎると、先々の大木の中程の高さの枝が、微妙にたわむ。毎度の事だが。
鞍馬寺金堂でお参りした後、奥の院へ向かって木の根道を歩く。
魔王殿の前で、一人の小柄で上品な感じの老人が、良い声で謡っていた。
“…花咲かば、告げんと言ひし山里の、使ひは来たり馬に鞍。鞍馬の山のうず桜…”
言霊が周囲の木立に広がって行くようで、思わず足を止め、聞き惚れた。
最後の一声が余韻を残して空に消えた時、同じように立ち止まっていた人たちの間から、溜め息と拍手が湧き起こる。老人はにっこり笑って、大杉権現の方へ立ち去った。
鞍馬山を下り、貴船川に沿って歩く。真夏の昼日中だと言うのに、空気がひんやりして気持ちがいい。流れの上には幾つもの川床。週末は人で溢れているのだろうが、今日はそうでもない。少し離れると、清冽な流れの中、カワガラスが小魚を追って水を潜り、アオサギがじっと獲物を待つ。もう備えの出来たススキが揺れる上を、トンボたちが飛び回る。
貴船神社へお参りに行く人は多いが、奥宮へ参る人は少ない。その静けさを楽しみながら、奥宮の船形石の横の小さな社に手を合わせる。弟たちも連れて来てやれればよかったが、何分にも平日の急な事。学生時
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- 凄く怖かったです。でも良い話でした。凄く良かったです。でも怖い話は怖かったです。また怖い話を見ます。すみっコぐらし
- 私も亡くなった両親に会いたいと思いました。 子供に戻って、たくさん話がしたい。 貴船の情景に、思わず涙が出ていました。まりん
- こういう話は端的に書きなさい。先生
- 素敵なお話をありがとうございました。貴船奥宮は摩訶不思議な空間です。改装される前の奥宮で龍穴から出てきた神様に遭遇したことがあります。そこは異空間ですね。追体験できました。さら
- なんて素敵な…切なくなりました。 逢いたい人…私は母に逢いたいです。使う・選ぶ言葉も文体も素敵ですね… 同じ伝えるにしても本当、文才のある方っているんですね〜 情景まで浮かび、感動しました。K
- 皆様、コメントありがとうございます。La
- 涙出ちゃいました。とてもステキなお話です。うんこりん
- 久しぶりに、活字で異次元を体験させていただきました。サキ
- この親子だから起こった奇跡!涙涙!匿名
- 凄くよいお話をありがとうございます。感動しました。?